研究の概要

再生可能エネルギー(太陽光)・蓄電池・ディーゼル発電機・EV充電設備を組み合わせたマイクログリッド(小規模分散型電力系統)は、電力系統が不安定な地域(新興国・離島・工場マイクログリッド等)での電力安定供給と脱炭素化を両立する有力アプローチです。しかし「いつ系統が停電するか分からない」という系統信頼度の不確実性と「EVの充電需要がいつどれだけ発生するか」という需要不確実性を同時に制御に組み込む手法は確立されていませんでした。

本研究はガーナのAshesi大学エネルギーハブを実証対象として、シナリオベース確率的モデル予測制御(SMPC)を開発しました。系統停電シナリオは「連続時間マルコフ連鎖」で、EV充電需要シナリオは「ガウス過程(GP)」でそれぞれモデル化し、2023年の実運用データで検証。MPCの制御ホライゾン内で複数の停電・需要シナリオを並行評価することで、最悪ケースに備えつつ通常時の経済性も最適化する制御を実現します。

主な発見・成果

  • 完全予見ベンチマーク比1%以内の運用コスト・CO₂排出性能を達成
  • 停電を無視したナイーブMPCは「ルールベース制御と比べて経済的・環境的優位性がない」ことを実証(停電考慮が不可欠)
  • EV不確実性に対して決定論的バッファを追加することでSOC違反を90%以上除去(追加コストは軽微)
  • ガウス過程によるEV消費量予測が制御精度向上に有効
  • 実データ(ガーナ2023年)による検証で現実妥当性を確認

実務への応用

工場・商業施設・病院・大学キャンパス等のマイクログリッドにEVフリート(社用車・フォークリフト等)を統合する計画を持つGX担当者に直接的な示唆を提供します。

最も重要な実務的知見は「EV充電需要を無視したままマイクログリッドを最適制御しても、EVによる不確実需要が制御を破綻させる」という点です。工場内EV(フォークリフト・構内搬送車)の充電需要や、充電スタンドからのピーク需要は予測困難ですが、本研究のガウス過程ベースシナリオモデルにより確率的に管理できます。

日本の文脈では、2030年以降に工場・物流施設でフォークリフトの電動化が進むと、マイクログリッドの電力需要の変動性が急増します。確率的MPCによる「太陽光・蓄電池・EV充電・自家発電の同時最適制御」は、電力コスト削減とScope 2排出削減を同時に実現するシステム設計の標準アーキテクチャになる可能性があります。特に「系統信頼度が低い海外製造拠点(東南アジア・アフリカ等)」への展開では、停電リスクを明示的に制御設計に組み込む本研究の手法が実用価値を持ちます。