研究の概要
水素燃料電池(PEMFC:固体高分子形燃料電池)の普及コスト削減には、①希少金属である白金(Pt)の使用量削減と②高出力密度・長寿命の実現という相反する課題の解決が不可欠である。高温(80〜160°C以上)で動作させると白金触媒の活性が向上し、一酸化炭素(CO)被毒耐性も改善されるが、従来の電解質膜(ナフィオン等)は高温・低加湿条件でイオン伝導性が急低下する問題があった。
本研究は、銅イオン(Cu²⁺)による動的金属架橋(metal-ion crosslinking)戦略を用いて薄くかつ高温耐久性に優れた高温型PEMFC用メンブレンを実現した。金属架橋が形成する動的なネットワークはメカニカル強度を維持しながらプロトン伝導チャンネルを確保し、膜の薄型化(抵抗低減)と耐久性向上を同時に達成した。
主な発見・成果
- 銅イオン動的架橋戦略により薄型かつ高耐久の高温型PEMFC電解質膜を実現
- 高出力密度と高温耐久性を同時達成(従来の薄型化・高温化のトレードオフを克服)
- 高温動作による白金触媒利用効率の向上でPt使用量削減の経路を提供
- 高温廃熱の有効活用(コジェネレーション応用)が可能になる技術的基盤を提供
- 膜製造プロセスの工業スケール適用可能性を示す実証データを含む
実務への応用
水素社会の実現において、燃料電池システムのコスト削減は最優先課題である。高温PEMFC(HT-PEMFC)の実用化は以下の実務的価値を持つ:①白金触媒量の削減によるシステムコストの低下(白金はFCシステムコストの30〜50%を占める)、②高温廃熱(80〜160°C)の地域熱供給・産業利用への活用(総合効率85%以上のコジェネレーション)、③COリッチな改質ガスへの耐性向上による水素品質要求の緩和。FC車・定置型燃料電池・船舶・産業用燃料電池システムの導入を検討する事業者にとって、本技術の進展は採用コスト低下の重要な要因となる。水素サプライチェーン構築と並行して燃料電池スタック技術のロードマップを注視すべき。