「毎年同じ問題が繰り返される」Scope3算定。 その根本原因と、現場で動く処方箋を5つの章で解説します。
Chapter 01
多くの企業で、Scope3算定は毎年「担当者1名が3ヶ月かけて疲弊し、 精度に自信のないデータを提出する」というサイクルが繰り返されています。 これは担当者の能力の問題ではなく、構造的な問題です。
脱炭素に向けたロードマップは、多くの企業でコンサルタントや サステナビリティ部門によって策定されています。しかしその「戦略」は、 実際にデータを集め・計算し・報告書を作る「実務」とほぼ完全に切り離されています。
戦略側は「2030年までにScope3を30%削減」という目標を掲げます。 しかし実務側には、その算定を担える専門知識を持つ人材が存在しません。 結果として、毎年「誰かが気合いで乗り切る」という属人的な対応が続きます。
gxceedの見立て
GXが進まない最大の制約条件は、ツールでも予算でも目標値でもありません。 「実務を動かせる人材の不在」です。 この問題を解決しない限り、どんな高度な戦略も絵に描いた餅に終わります。
担当者が3ヶ月かけて疲弊しながら算定を完了させると、 翌年もまた同じ人が同じプロセスで対応します。 しかし、その「経験」は属人化されており、 担当者が異動・退職すると知識がゼロリセットされます。
さらに深刻なのは、Scope3の算定範囲(カテゴリ)や報告基準が 毎年アップデートされることです。GHGプロトコルの改訂、 CDP設問の変更、TCFD開示要件の強化——これらに追いつくには、 継続的な学習と更新が不可欠ですが、その仕組みがありません。
2026年以降の制度変更に注意: GX推進法に基づくGX-ETSの本格運用開始により、 Scope3算定の精度要件は大幅に厳格化される見通しです。 「今まで通り」の対応では、制度上のペナルティリスクが発生します。
Chapter 02
Scope3算定でよく見られる「Excelバケツリレー」方式—— 調達先にメールでデータを依頼し、集まったExcelを手作業で集計する手法です。 この方式は、規模・精度・継続性のすべてにおいて構造的限界を抱えています。
調達先300社にメール依頼を送っても、返信があるのは平均84社程度です。 残り216社分は推計値で補完するか、空白のまま提出するかという 二択になります。データカバレッジが低い算定結果は、 CDPや機関投資家から「信頼性なし」と評価されます。
各サプライヤーが独自フォーマットで返信するため、 集計担当者は数十〜数百のExcelファイルを手作業で統合します。 単位の揺れ(tCO2e vs CO2換算など)、 算定境界の違い、データの空欄処理——一つひとつが属人的判断を要します。
算定ロジックが担当者の頭の中にあり、引き継ぎ資料が存在しない。 担当者が異動・退職すると、翌年はゼロから再構築になります。 ある製造業大手では、担当者交代後の算定期間が前年比2倍になった事例もあります。
第三者保証(Limited Assurance / Reasonable Assurance)を取得しようとすると、 計算根拠の文書化・エビデンスの保管が必要です。 Excel集計では、この監査証跡の提示がほぼ不可能であり、 保証取得を断念するケースが頻発しています。
精度の低いデータでは、「どのカテゴリを重点的に削減すべきか」という 戦略的判断ができません。算定はあくまで「報告義務のための作業」として 完了するだけで、それが削減アクションに繋がりません。
チェックリスト:自社の該当数を確認
□ Scope3算定の全担当者が3名以下である
□ 算定プロセスのドキュメントが存在しない
□ サプライヤーへの依頼に毎年2週間以上かかっている
□ 回収率が50%を下回っている
□ 算定結果に対して経営層から「本当に正しいのか」と問われたことがある
2つ以上該当する場合:構造的改革が急務です。
Chapter 03
ツール導入やコンサル委託の前に、まず「人」を変える—— gxceedが提唱する「人材起点アプローチ」の設計フレームワークを解説します。 ポイントは、既存の社員(特に事務系・調達系)を GX実務人材にジョブ転換させることです。
多くの企業がScope3対応にクラウドツールを導入します。しかし、 ツールはデータを入力しなければ動きません。 データを集め・精査し・入力する「人」がいなければ、 高額なツールが宝の持ち腐れになります。
逆に言えば、適切に育成された人材さえいれば、 ツールは後から最適なものを選べます。 「人材 → プロセス → ツール」の順序が正解です。
| フェーズ | 誰が担うか | 必要スキル | 育成期間の目安 |
|---|---|---|---|
| データ収集 サプライヤー連絡・回収管理 |
調達部門の事務担当 (2〜3名) |
GHGプロトコル基礎、Excelデータ整理、サプライヤーコミュニケーション | 4〜6週間 |
| 算定・検証 排出量計算・精度確認 |
GX推進リード (1名) |
Scope1〜3算定、カテゴリ判定、一次データ vs 二次データ判断 | 8〜12週間 |
| 開示・報告 CDP・TCFD対応 |
経営企画 or サステナ担当 (1名) |
開示フレームワーク理解、気候関連リスク評価、シナリオ分析 | 6〜8週間(並行可) |
| 戦略立案 削減目標・SBT設定 |
経営層 + 外部支援 | SBTi理解、事業計画との統合、脱炭素投資優先順位付け | 継続的 |
従来の対応(現状)
人材起点アプローチ後
重要なポイント
ジョブ転換の対象として最も効果的なのは、 調達部門の事務担当者です。理由は3つ: ①サプライヤーとの関係性がすでに構築されている ②データ収集・整理の業務スキルがある ③GXリテラシーを習得することで即戦力化できる。 「GXは専門家の仕事」という固定観念を捨てることが第一歩です。
Chapter 04
「フルのコンサルティング契約はハードルが高い」—— そのような企業のために、gxceedはまず4週間のPoC(概念実証)から 始めることを推奨しています。短期間で「変革が動く感覚」を 体験し、次のフェーズへの確信を持つことが目的です。
Week 1
経営層・現場担当者へのヒアリング(各60分 × 3〜5名)を実施。 現在の算定プロセス、データソース、ボトルネックをマッピング。 PoC対象となる部門と人材2〜3名を確定します。
Week 2
午前:気候変動・カーボンニュートラルの背景(環境倫理から)
午後:GHGプロトコル基礎・Scope1〜3の定義と算定方法
Day2:実際の社内データを使ったハンズオン演習
Week 3
対象カテゴリ(Cat.1〜15)の優先順位付け。 一次データ収集テンプレートの作成。 主要サプライヤー10社への試験的データ依頼と回収実施。 算定ツール選定の基準整理(Excel vs 専用ツール判断)。
Week 4
収集データを使った限定的Scope3試算の実施。 「精度の壁」がどこにあるか、データで可視化。 PoC課題レポートの作成と経営層向け報告。 フルエンゲージメント移行判断のための材料整理。
| 観点 | PoC前 | PoC後 |
|---|---|---|
| 担当者のGXリテラシー | ほぼゼロ・断片的 | 基礎フレームワーク習得・自走可能 |
| 算定プロセスの可視化 | 属人的・不透明 | フローチャート化・引き継ぎ可能 |
| サプライヤーへのアプローチ | メール一斉送信・低回収率 | 優先度分類・テンプレート整備 |
| 経営層の理解 | 「担当に任せてある」 | ボトルネックと投資対効果を理解 |
| 次フェーズへの確信 | 漠然とした不安 | 具体的課題と解決策が見える |
Chapter 05
2026年は、日本のGX関連制度が本格的に動き出す重要な年です。 GX-ETSの本格運用、TCFD開示の実質義務化拡大、SBTi要件の強化—— これらを「対応が必要なイベント」としてではなく、 「産業構造の転換機会」として捉えることが重要です。
| 時期 | 制度・イベント | 企業への影響 |
|---|---|---|
| 2026年 | GX-ETS本格運用開始(第1フェーズ) | 排出量の精密な把握・報告が法的義務に。算定精度の低い企業はコスト増リスク |
| 2026年 | 有価証券報告書へのTCFD情報開示拡大 | 上場企業はScope1〜3、気候関連リスク・機会の定量開示が事実上必須 |
| 2027年 | ISSB(S2)基準の日本での適用開始検討 | 国際的な気候開示基準への対応。Scope3算定の国際的整合性が問われる |
| 2028年 | GX-ETS第2フェーズ(有償割当て開始) | 排出量超過分は排出権購入が必要に。削減実績のない企業は大幅コスト増 |
| 2030年 | GHG46%削減目標(2013年比)達成期限 | 日本全体・各企業の削減実績が問われる。SBT達成の「証拠」が必要 |
GX制度への対応を「コストセンター」として捉える企業と、 「プロフィットセンター」として設計する企業では、 2030年時点での競争力に大きな差が生まれます。
守りのGX(コストセンター)
攻めのGX(プロフィットセンター)
今すぐ動くべき3つの理由
①先行者利益:GX人材の確保・育成には時間がかかります。今から動く企業が、2028年以降に人材市場でも制度対応でも圧倒的に有利な立場に立ちます。
②サプライチェーン圧力:大手製造業・商社は2026年以降、サプライヤーにScope3データ提供を義務付け始めます。対応できない企業は取引から排除されるリスクがあります。
③投資家スクリーニング:機関投資家のESGスクリーニングは強化され続けています。Scope3開示のない企業への投資を引き揚げる動きが加速しています。