研究の概要

住宅の断熱改修とヒートポンプ導入は、建物部門の脱炭素化において最も有望な施策とされているが、実際のエネルギー消費削減効果を実データで定量化した研究は少ない。本研究はフランスのスマートメーターデータを保有するHello Wattのユーザー約2,500世帯を対象に、二重差分法(差の差:DiD)を用いて各種改修措置の実効果を計測した。

分析対象の改修措置は、壁断熱、屋根断熱、床断熱、エア・ツー・エア(空気熱源)ヒートポンプ、エア・ツー・ウォーター(温水)ヒートポンプ、および複数措置の組み合わせ改修。Météo Franceの気温データとユーザー申告情報を組み合わせ、改修前後の消費変化を対照群と比較することで因果推論を行った。

主な発見・成果

  • 断熱改修:電力消費3〜13%削減、ガス消費5〜16%削減(暖房のみで分析した場合は電力暖房7〜27%、ガス暖房7〜19%削減)
  • エア・ツー・ウォーターヒートポンプへの置換:ガスボイラー代替により炭素排出量85%削減という顕著な効果
  • 複数措置の組み合わせ改修で相乗効果が確認された
  • スマートメーターの実データを使った因果推論により、従来の自己申告ベース調査よりも信頼性の高い数値を提供

実務への応用

建物・不動産セクターの脱炭素担当者、またはGHGインベントリでScope 1・Scope 3(サプライチェーン内の建物利用)を算定している企業にとって、本研究の数値は改修投資対効果の根拠として活用できる。特にガスボイラーからヒートポンプへの置換効果(85%削減)は、改修ロードマップの優先付けに直接役立つ。日本の建物改修補助金(ZEB・ZEH等)を活用した投資計画の費用対効果試算にも応用可能。