研究の概要

欧州の電力市場では、炭素排出権(EUA)価格の上昇が限界費用の高い化石燃料発電を高値で決定させ、その価格に基づいてクリーンエネルギー発電機も過剰な利益を得るという「超過利潤問題」が生じている。この構造は炭素税・ETS(排出量取引制度)の効果を消費者負担増という形で阻害している。本研究はこの問題を解決する新しい市場設計メカニズムを提案する。

提案メカニズムでは、市場価格が一定閾値を超えた場合、非排出発電機(再エネ・原子力等)に対してクリアリング価格から固定CO₂代理値を差し引いた補償を行い、その分を消費者に還元する。オーストリアとドイツの2025年時間別電力市場データを用いた実証分析を行った。

主な発見・成果

  • オーストリア:消費者支出を約8.5%削減
  • ドイツ:消費者支出を約4.7%削減
  • クリーン電力生産者への適切な報酬を維持しながら超過利潤を抑制
  • 閾値入札インセンティブ、差金決済契約(CfD)との相互作用、複数入札ゾーンへの展開可能性も分析
  • エネルギー危機時のガス価格急騰シナリオへの適用も検討

実務への応用

エネルギー調達担当者・CFO・政策渉外担当者にとって、本研究は欧州ETSや日本の排出量取引制度(GX-ETS)における電力価格への炭素コスト転嫁問題を理解し、制度設計への働きかけを行う際の論拠を提供する。大口電力消費企業がPPA(電力購入契約)やCfDの設計交渉を行う際にも参考になる。日本でのGX-ETS本格稼働後に同様の市場歪みが生じた場合の対応策として事前に検討する価値がある。