研究の概要

港湾タグボートを対象に、水素燃料電池と蓄電池を組み合わせたハイブリッド推進システムの最適エネルギー管理を研究した論文です。船舶分野の脱炭素化において水素燃料電池は有望な選択肢ですが、燃料電池の劣化を考慮せずに運用すると寿命が大幅に短縮されるという課題があります。本研究ではこの問題に正面から取り組んでいます。

Timon Kopkaらは実際の港湾タグボートの運航データを用い、データ駆動型の負荷予測モデルと予測制御(MPC)を組み合わせて、水素消費量と燃料電池劣化の両方を同時に最小化する手法を開発しました。15分および1時間の予測ウィンドウで実際の船内計測データを活用し、高精度な負荷予測が可能であることを実証しています。特に、劣化が進んだ燃料電池ほど本手法の効果が大きく出る点が実用上重要です。

主な発見・成果

  • 従来のフィルタベース手法と比較して、水素消費量を最大5.8%削減
  • 燃料電池劣化を最大36.4%低減(劣化が進んだ燃料電池では特に効果大)
  • 実際の港湾タグボートデータによる実証で、実運用への適用可能性を確認
  • 15分予測ウィンドウでの高精度負荷予測を実現
  • 水素消費コストと燃料電池寿命の両方を考慮した多目的最適化を実現

実務への応用

港湾・海運の脱炭素化を推進する企業にとって直接参考になる研究です。水素燃料電池船の導入コストの大部分を占める燃料電池スタックの寿命管理において、予測制御ベースのエネルギー管理システムを採用することで、劣化を大幅に抑制できます。初期投資コストが高い水素船舶のTCO(総保有コスト)を改善し、経済的な水素化への移行を支援します。また、15分間隔の実運航データを学習に活用するデータ駆動型アプローチは、既存船舶の改造(レトロフィット)における実用的な最適化手法として展開可能です。港湾運営者やフェリー事業者が水素・アンモニア燃料船への移行を検討する際の技術的判断材料になります。