実装のポイント
鉄鋼製造における最大のScope1排出源は高炉製鉄(コークスを使って鉄鉱石を還元する工程)であり、電炉(EAF:Electric Arc Furnace)への転換によってScope1排出量を大幅に削減できる。電炉は鉄スクラップを電気で溶融する方式で、再生可能エネルギー由来の電力を使えばCO2排出をほぼゼロにできる。
日本製鉄株式会社は2026年4月、国内3拠点で合計年間約290万トンの電炉を2029年度までに稼働させる計画を発表。総投資額は6302億円(うち政府支援1799億円)。九州製鉄所八幡地区(北九州市戸畑区)では既に着工し、200万トン規模の大型電炉1基を新設、現行の高炉1基を2030年9月末に休止予定である。
具体的な手順
ステップ1:自社の高炉稼働状況と電炉転換可能性を評価する
電炉転換には大規模な設備投資と電力インフラ増強が必要。評価すべき項目:
- 現行高炉の残存耐用年数(修繕タイミングとの連動が投資効率を高める)
- 工場立地の系統電力容量・再エネ調達可能量
- スクラップ鉄の安定調達ルート(電炉はスクラップが主原料)
- 対象製品の品質要件(高炉鋼と電炉鋼では成分管理が異なる)
ステップ2:政府支援制度を活用して投資計画を組む
日本製鉄のケースでは、総投資6302億円のうち約28%(1799億円)が政府支援。グリーンイノベーション基金(NEDO)や産業脱炭素化支援制度が主な財源。申請に必要な要件:
- GHG削減量の定量的な事業計画(ベースライン比での削減t-CO2を算定)
- 技術実証・量産移行のフェーズゲート設定
- 国内生産維持・雇用確保の計画
ステップ3:転換フェーズのスケジューリング
日本製鉄の実施スケジュールは参考となる:
- 2026年: 着工(九州八幡地区)
- 2029年度下期: 電炉稼働開始(九州・瀬戸内・山口の3拠点順次)
- 2030年9月: 九州の高炉1基休止
- 合計290万トン/年の電炉体制完成
転換期間中は高炉と電炉の並行稼働が必要で、過渡期のエネルギーコスト上昇を見込んだ財務計画が必須。
ステップ4:再エネ電力の確保
電炉の脱炭素効果を最大化するには電力のScope2削減が前提となる。コーポレートPPA・非化石証書調達と組み合わせて実施することで、電炉稼働分のScope2もゼロ化できる。
得られた結果
| 指標 | 数値・内容 |
|---|---|
| 総投資額 | 6302億円 |
| 政府支援額 | 1799億円(総投資の約28%) |
| 転換規模(全拠点合計) | 年産約290万トンの電炉体制 |
| 転換拠点 | 九州八幡・瀬戸内広畑・山口の3カ所 |
| 稼働開始 | 2029年度下期(順次) |
| 高炉休止予定 | 2030年9月末(九州1基) |
日本の粗鋼生産量(約8500万トン/年)に占める電炉比率は現状約25%。今回の日本製鉄の転換計画は、国内の高炉→電炉シフトを加速する先行事例として業界全体への波及が期待される。スコープ1の削減が困難な製鉄業にとって、電炉転換はほぼ唯一の抜本的解決策であり、2050年カーボンニュートラルに向けた必須ステップとなっている。