実装のポイント
岡山県の自動車シート部品メーカー・備前発条株式会社(売上約38億円)は、Tier2の中小製造業として「大規模投資なしに脱炭素を競争力に変える」実装事例を持つ。2023年、Apple 2030(サプライチェーン全体での2030年カーボンニュートラル達成)を知った山根教代社長が社内横断SDGsチームを立ち上げ、既存の生産性管理指標にCO2排出量を組み込む「二重の見える化」を開始した。重要なのは「追加大規模投資ゼロから始められる実装手順」である。
具体的な手順
ステップ1:CO2と生産性を同一フレームで管理する
財務指標(付加価値額)とCO2排出量を同一ダッシュボードで可視化する。「省エネ→コスト削減→CO2削減」の連動をKPIとして設定し、環境対応が追加コストではなく生産性改善の一部として機能する設計にする。従業員が数値を自分ごととして理解できるよう、工程レベルで分解して共有することがポイント。
ステップ2:既存資産の転用でScope1排出を削減
同社は自動車業界でタブー視されていた金型転用を実現。既存金型を異メーカー向けに流用することで廃棄資源を削減し、新規取引先(スポーツシートブランドBRIDE)を開拓した。「環境負荷低減+新規売上創出」を同時に達成するアプローチは、廃棄物削減・材料効率化の観点からScope1削減に直結する。
ステップ3:先行実装で調達評価・採用力を向上させる
大手OEMからTier2への脱炭素要請が本格化する前に自主対応することで、外部認知(受賞・白書掲載)と採用競争力(環境専攻の新卒が自発的応募)を獲得した。EUDRやScope3開示義務がTier2まで波及する前に「評価される側」になるための先行戦略として機能している。
ステップ4:人権方針を多言語化し外国人材のエンゲージメントを確保
外国人材が従業員の25%を占めるため、人権方針をベトナム語・インドネシア語・フィリピノ語・中国語に翻訳・公開。担当者と実習生による「交換日記」で困りごとを早期把握する体制を整備した。国連「ビジネスと人権に関する指導原則」に基づく三段階の人権デューデリジェンス体制(相談→是正→外部専門家連携)も構築している。
得られた結果
| 指標 | 成果 |
|---|---|
| 新規取引 | スポーツシートブランドBRIDEとの取引開始(金型転用) |
| 外部評価 | おかやまSDGsアワード2024受賞 |
| 行政認知 | 中小企業白書・小規模企業白書(2025年版)掲載 |
| 採用効果 | 環境システム専攻の新卒が自発的に応募・入社 |
| 人権対応 | 4言語の人権方針策定・三段階相談体制構築 |
自動車サプライチェーン全体でTier1からTier2への脱炭素要請が波及する前に先行実装することで、コスト増ではなく差別化要因として活用できることを実証した事例。JETROのレポートは「サステナビリティーは必ずしも大規模投資や事業変革を必要としない。既存の生産性改善活動と統合し、小さな取り組みを積み重ねることで環境・経済・人材の好循環を生み出せる」と結論付けている。