背景
Rocky Mountain Institute(RMI)は2026年4月20日、アジア太平洋7カ国(日本・中国・韓国・インド・オーストラリア・インドネシア・ベトナム)の鉄鋼需要を分析し、2030年時点でのニアゼロエミッション鉄鋼(グリーンスチール)の民間需要を610万トン/年、公共セクター需要のポテンシャルを最大3,820万トン/年と推計した。
一方で現在の供給推計はわずか250万トン/年であり、需要と供給の間には3〜7倍の大幅なギャップが存在する。このギャップを埋めるため、RMIは製鉄会社(サプライサイド)ではなく需要側企業の連合形成こそが最速の市場創出策であると論じている。
実装ステップ(需要側主導のグリーンスチール調達)
ステップ1:グリーンスチールの定義と算定基準を確定する
「グリーンスチール」の定義は国際的に統一されていない。購買企業は調達契約に先立ち、以下を明確にする必要がある:
- ニアゼロの閾値:CO₂強度の基準値(例:0.4t CO₂e/t steel — SteelZero目標)
- 算定境界:Scope1排出のみか、Scope2(購入電力)・Scope3(原料・物流)を含むか
- 認証方法:第三者検証の要否(例:ResponsibleSteel認証・SteelZero証書)
- 追跡方法:グリーンスチール証書(Green Steel Certificate)の発行・保管・報告フロー
ステップ2:Sustainable Steel Buyers Platform(SSBP)に参画する
RMIが運営する**Sustainable Steel Buyers Platform(SSBP)**は、需要側の企業が連合して調達要件・基準・ロードマップを統一的に発信する枠組みだ。個社での購買交渉より規模が大きくなることでサプライヤーへのシグナルが強まり、プレミアム価格(現在5〜25%追加)の引き下げ効果も期待できる。自動車・建設・家電・輸送機器の大手企業が連名でグリーンスチール調達コミットメントを発表することで、製鉄会社の投資判断(電気炉転換・水素還元炉導入)を前倒しで促進できる。
ステップ3:Tier1〜Tier3サプライヤーへの要求を段階的に拡大する
Tier1サプライヤーへのグリーンスチール使用要求から開始し、段階的にTier2・Tier3へ拡大する。要求の段階的引き上げスケジュール(例:2025年15%→2027年30%→2030年50%)を事前に開示することで、サプライヤーが設備投資計画を立てやすくなる。Scope3カテゴリ1(購入物品・サービス)の算定精緻化を並行して進め、SBTi目標への充当を可能にする。
ステップ4:政府調達基準への働きかけを行う
RMIの試算では、政府の気候目標に整合した調達要件を政策として義務付けることで、民間需要の約6倍(1,150万トン)の追加需要が生み出せる。インフラ・建設分野の公共調達基準にグリーンスチール要件を導入する政策渉外活動が、市場全体の底上げに最も大きなインパクトをもたらす。
使うツール・標準
- SteelZero(First Movers Coalition連携):2030年までに調達鉄鋼の50%をニアゼロに移行するコーポレートコミットメントプログラム
- Sustainable Steel Buyers Platform(RMI):購買者連合による需要側シグナル発信・調達基準統一プラットフォーム
- GHGプロトコル Scope3カテゴリ1:調達鋼材の排出量算定(購入物品・サービス)
- ResponsibleSteel認証:製鉄所レベルの環境・社会・ガバナンス基準認証(第三者検証)
- Science Based Targets for Steel(SBTi):製鉄業界向け1.5℃整合目標設定ガイダンス
成功のポイント
RMIが指摘する最大の障壁は「製品基準と定義の未整備」と「サプライチェーンの複雑性」だ。2030年時点の供給推計250万トンに対し民間需要だけで最大610万トン(最大シナリオで1,760万トン)に達する可能性があることは、「今すぐ確保しないと調達できなくなる」というリスクを示している。早期の長期契約締結と需要側連合への参画が調達優位性を決定する。
プレミアム(追加コスト5〜25%)は、需要側コミットメントが積み上がることで製造コストが低下し、2030年代には大幅縮小すると予測されている。
日本企業への適用
日本の自動車・建設・造船・家電業界は国内の高炉製鉄会社(日本製鉄・JFEスチール・神戸製鋼等)から調達しているが、これら製鉄会社は2050年カーボンニュートラルに向けた電気炉転換・水素還元炉実証(COURSE50・SuperCOURSE50)を進めている。
需要側企業にとっての優先アクション:
- SteelZeroへの参画:コーポレートコミットメントとして2030年50%ニアゼロ調達目標を公表し、製鉄会社の設備投資を後押し
- Scope3カテゴリ1の精緻化:調達量×排出強度データをサプライヤーから取得し、SBTi目標設定に活用。ResponsibleSteel認証取得済みミルからの優先調達ポリシーを設定
- 政府インフラ調達との連携:国土交通省・経済産業省のグリーン公共調達ガイドライン改定に向けた業界団体経由の働きかけを行い、国内グリーンスチール市場の早期立ち上げを促進