研究の概要
風力発電ファームの発電量最大化と風車の構造的健全性(疲労荷重管理)は、本質的にトレードオフ関係にある。発電量を増やすためのウェイクステアリング(故意に風車を斜めにして下流を保護する手法)は、風車自体への荷重を増大させることがある。本研究では、複数の風車エージェントが協調して「発電量最大化」と「疲労荷重閾値の遵守」を同時に達成するマルチエージェント強化学習(MARL)フレームワークを構築した。
Independent Soft Actor-Critic(ISAC)アーキテクチャにDynamic Wake Meandering(DWM)流体ソルバーと連動したサロゲートモデルを組み合わせ、リアルタイムでDamage Equivalent Loads(DEL)を推定しながら各タービンを制御する。ベースライン比較において、DELの増加を10%・20%・30%以内に抑えながら発電量を最大化するシナリオを検証した。
主な発見・成果
- MARLエージェントが協調戦略を自律的に学習し、発電量最大化と荷重制約の遵守を同時達成
- 設定した荷重閾値(ベースライン比+10%〜+30%)の範囲内で制御を実行
- 荷重制約なし設定との比較で、制約付きエージェントが安全かつ効果的な制御を実現
- WindGym環境とDYNAMIKSフローソルバーによる現実的なシミュレーションで検証済み
- Torque 2026国際会議(Journal of Physics: Conference Series)採択済み
実務への応用
風力発電事業者の実務において「発電量を増やしたいが風車の寿命を縮めたくない」というジレンマは根本的な課題である。本研究は、AI制御が発電量と機械的健全性のバランスを定量的に管理できることを示しており、O&M(運転・保守)コストを考慮した総合的な収益最適化への応用が期待される。特に洋上風力では保守アクセスが制限されるため、疲労荷重管理の重要性はさらに高い。