やったこと

大成建設は、同社技術センター(神奈川県相模原市)内の「人と空間のラボ(ZEB実証棟)」において、太陽光発電のみで建物電力を100%賄う運用実証を行った。2023年冬季より実証を開始し、2026年4月16日に成果を公表。すでに2014年以来11年間にわたりエネルギー収支ゼロ(ZEB)を実現してきた施設に、短期・長期の蓄エネルギー設備と独自EMSを新たに追加した。系統電力に頼らず太陽光のみで建物を運営する「オフグリッドZEB」の実現に向けた技術実証として業界から注目されている。

具体的な手順・工夫

蓄エネルギー二層構造

役割設備目的
短期貯蔵(日内平準化)リチウムイオン型蓄電池日中の余剰電力を夜間に放電
長期貯蔵(季節間調整)低圧水素貯蔵設備春〜秋の余剰電力→水素製造→冬季の燃料電池発電

EMSによる自動制御フロー

独自開発のEMSが気象予報・需要予測・蓄電池SOC(残量)をリアルタイムで監視し、以下の優先順位で電力を自動制御する:

  1. 太陽光で直接供給
  2. 余剰分を蓄電池へ充電
  3. さらに余剰の場合は電解水素として製造・貯蔵
  4. 蓄電池が枯渇しそうな場合は燃料電池で水素発電し補填

低圧水素採用のポイント

高圧水素タンクと比べて安全規制が緩く、建物内設置に適した低圧水素貯蔵を採用。建物の中長期的な需給ギャップ(特に冬季の慢性的な日照不足)を季節をまたいで解消できる点が設計の核心。電解槽で余剰電力を水素に変換・貯蔵し、燃料電池を通じて発電するという「Power-to-Gas-to-Power」フローを建物スケールで実装している。

既存ZEB施設への追加実装

2014年からZEB運用実績のある施設に追加した形であり、既存の高断熱・高気密建物が基盤となっている。省エネ(ZEB)と電力自給(系統ゼロ)は別の技術課題であり、本事例では後者への踏み込みが最大の特徴。

得られた結果

2024年6月(晴天日・夏季)

  • 発電量:444kWh(日照時間12.1時間)
  • 内訳:直接供給57kWh / 蓄電池充電155kWh / 水素製造232kWh / 夜間使用40kWh

2025年2月(晴天日・冬季)

  • 発電量:297kWh(日照時間8.4時間)
  • 燃料電池からの夜間・曇天補填:168kWh(冬季に貯蔵した水素由来)

「短期・長期の需給バランス調整を計画通りに実施できることを確認」し、商用電力ゼロでの年間運用実証に向けて継続中。

他社が参考にすべき点

  1. ZEB認定取得後の「次のゴール」が見えた:ZEB認定(省エネ)を達成済みの企業でも、商用電力ゼロ(オフグリッド)は別の技術課題。本事例は「ZEB+系統ゼロ」への技術ロードマップを示すリファレンスとなる。

  2. 蓄電池だけでは季節間変動に対応できない:日内の電力平準化はリチウムイオン電池で対応できるが、冬季の慢性的な日照不足は水素による季節間貯蔵でしか解消できない。建物スケールで太陽光オフグリッドを設計する際は「短期(蓄電池)+長期(水素)」の二層構造が設計の前提になる。

  3. 低圧水素は建物内設置の現実的選択肢:高圧水素に比べ安全規制が緩く導入障壁が低い。工場・研究施設・データセンターなど大規模電力消費設備を保有し、再エネ100%を目指す企業の設備設計に直接参考になる。

  4. EMSによるリアルタイム制御が自給率の要:太陽光・蓄電池・水素の三要素を統合制御するEMSの有無が実用性を左右する。制御ロジックの設計(優先順位・切替条件)を先行事例として参照できる。