概要

化学品サプライチェーンの脱炭素化は、資本集約的な製造設備・複雑なサプライチェーン・薄い利益率という構造的障壁から、個社での対応が困難な領域だ。RMIとCenter for Green Market Activation(GMA)が2026年4月29日に発表した「低排出化学品のための集団調達パイロット」は、テクノロジー・消費財・アパレル・食品飲料等のバイヤー企業が購買力を結集し、低排出エチレン生産への投資を呼び込む新しいメカニズムだ。航空燃料分野での成功事例(SABA: Sustainable Aviation Buyers Alliance)を化学品に応用したこのモデルは、**Scope3カテゴリ1(購入した物品・サービス)**の実践的な削減手段として注目される。

実装ステップ

Step 1: 自社のScope3化学品エクスポージャーを特定する

  • 原材料・包材の調達リストからエチレン・プロピレン等の石化原料を特定する
  • 各調達品のGHG排出量をGHGプロトコル Scope3 カテゴリ1ガイダンスに従い算定する(サプライヤー固有データ優先)
  • エチレン換算での年間調達量を把握し、集団調達参加時の対象量を計算する

Step 2: Book & Claim(帳簿・請求)システムの仕組みを理解する

Book & Claimは物理的な製品フローと環境属性(排出削減証書)を分離する仕組みで、以下の4ステップで機能する:

  1. 生産者認証: 化学品メーカーが低排出製造プロセス(エネルギー源・排出量)の第三者検証を受ける
  2. EAC(環境属性証書)発行: 生産した低排出エチレン量に応じた証書をレジストリに登録・発行する
  3. EAC取引: バイヤー企業が物理的サプライチェーンを変更せずにEACを購入できる
  4. GHG開示への組み込み: 購入したEAC量に基づくScope3削減量を算定・報告する

Step 3: 集団調達コンソーシアムへの参加手順

  • GMAセンター(gmacenter.org/rfps/list)のRFPを確認する(2026年7月3日締切)
  • 参加意向を[email protected]に連絡し、購入コミット量を提示する
  • 複数企業の購買力をプールすることで、化学品メーカーへの低排出投資シグナルを強化する
  • 集団参加時の想定削減量:年間3,000〜10,000 tCO₂e相当

Step 4: 化学品メーカー側の対応手順(供給者向け)

  • 低排出エチレン製造プロセスの排出量を透明性をもって計測・開示する
  • GMAのRFPに応募し、EAC発行の資格要件を確認する
  • EAC収益を活用して低排出プロセスへの設備投資を回収するビジネスモデルを設計する

Step 5: GHG開示への反映方法

  • GHGプロトコル Scope3 カテゴリ1: 購入したEAC量を市場ベース(Market-based)アプローチで算定・計上する
  • SBTi Scope3目標: 化学品EAC購入をScope3削減施策の1つとして目標達成の証拠とする
  • ISSB/SSBJ対応: 有価証券報告書の気候関連開示に「サプライチェーン脱炭素施策」として定量的に記載する

使うツール・標準

ツール/標準用途
GHGプロトコル Scope3 カテゴリ1ガイダンス購入した物品・サービスの排出量算定(サプライヤー別・産業平均)
EAC登録システム(Book & Claim)低排出属性証書の発行・管理・取引
SABA(Sustainable Aviation Buyers Alliance)モデル航空燃料分野での集団調達先行事例
GMAセンター RFPプラットフォーム低排出化学品の集団調達申請・管理
SBTi Scope3目標設定ガイダンス科学的根拠に基づくScope3削減目標への反映

成功のポイント

  1. 「集団」の力でリスクと交渉力を最大化する: 個社での低排出化学品調達は量が少なくコスト高になりがちだが、コンソーシアムで購買力を結集することで化学品メーカーへの投資シグナルが格段に強化される。RE100の電力PPA集団調達と同じ論理が化学品に適用されている

  2. 物理フローを変えずに環境価値を取引できる: Book & Claimは既存のサプライチェーンを変更せずに排出削減の「環境的価値」を取引する仕組みで、Scope2のREC(再エネ証書)・マーケット基準法と同じアーキテクチャを化学品Scope3に適用したものだ

  3. パイロット段階の今が参加のチャンス: 現在はルール形成段階のパイロット。早期参加者はEACの計上・検証方法のルール設定に影響力を持ち、将来的な規制・開示要件強化時に有利なポジションを確保できる

日本企業への適用

日本のサプライチェーン脱炭素対応において、化学品原料(エチレン・プロピレン等の石化素材)のScope3削減は特に難題とされてきた。このモデルは以下の企業・団体に直接活用できる:

  • 消費財・食品・アパレルメーカー: 製品包材・容器に使われるプラスチック原料(ポリエチレン等)のScope3削減目標達成にBook & Claimを活用できる。SBTi Scope3目標を持つ企業がカテゴリ1の削減手段として採用が広がっている
  • 電子機器・自動車メーカー(Scope3 Cat.1管理担当): 部品・素材に含まれる化学品の排出強度を下げるため、EAC購入をサプライヤーエンゲージメント施策に組み込む手段として活用できる
  • 石油化学メーカー(供給者として): 三菱ケミカル・住友化学・旭化成等の国内石化メーカーがGMAのRFPに応募することで、低排出製造プロセス投資の収益化経路として活用できる
  • 商社・業界団体: 日本国内でも同様の集団調達スキームを組成する際の参照モデルとして活用し、JPCA(日本化学品輸出入協会)等での議論を加速できる