概要

Science Based Targets initiative(SBTi)は2026年4月29日、絶対量削減アプローチ(ACA: Absolute Contraction Approach)の計算方法を更新した。2026〜2027年以降に目標設定する企業では、従来の固定削減率計算が「実現不可能な急勾配削減」を要求する問題が顕在化していたため、ベースイヤーからネットゼロ達成期限(2050年)までの「残り期間」に応じて年間削減率を動的に調整する仕組みに改訂された。Corporate Net-Zero Standard v1.3およびNear-Term Criteria v5.3に基づく目標設定・更新に即座に適用される。

実装ステップ

Step 1: 自社の目標設定ステータスを確認する

  • すでにSBTi検証済みの目標を持つ企業:変更不要。既存の検証済み目標はそのまま有効
  • 現在申請中または2026〜2027年に新規申請予定の企業:改訂ACAが自動適用される
  • 5年ごとの必須見直し(Mandatory Five-Year Review)の対象期間に入る企業:更新申請時に改訂ACAが適用される

Step 2: 改訂ACAの計算ロジックを理解する

変更前(旧ACA)

  • 固定の年間削減率でベースイヤーから目標年度まで線形削減
  • 2020年代前半に設計された方式のため、遅れて目標設定する企業には圧縮された短期間で急勾配の削減が要求されていた

変更後(新ACA)

  • ベースイヤーからネットゼロ期限(2050年以前)までの「残り期間」に比例して年間削減率を算定
  • 最低年間削減率フロア:4.2%(変更なし)
  • ネットゼロ達成期限:2050年以前(変更なし)

変更の実務的効果

  • 2026〜2027年に目標設定する企業が「現実的かつ野心的」な削減目標を設定しやすくなる
  • 旧方式と比べて、近年ベースイヤーを選ぶほど年間削減率が過度に上昇していた問題を解消

Step 3: バリデーションポータルで目標を計算・申請する

  • SBTiのバリデーションポータルツールは改訂ACAを自動適用するため、追加のデータ入力や計算変更は不要
  • エネルギー・工業・森林/土地/農業(FLAG)部門の目標に即座に適用
  • 既存申請中の案件も改訂計算が自動反映される

Step 4: 5年更新サイクルでの再検証計画

  • 既存検証済み目標は有効期限(5年)まで変更不要
  • 更新時期が来たら、その時点で有効な最新ACAに基づいて再計算・再申請する
  • 「早期行動には引き続き優遇措置がある」方針は維持されているため、5年更新時に補完的な野心引き上げが求められる可能性に備える

使うツール・標準

ツール/標準用途
SBTi Corporate Net-Zero Standard v1.3企業ネットゼロ目標の基準・要件
SBTi Near-Term Criteria v5.3近期(2030年前後)削減目標の設定基準
SBTi バリデーションポータルACA計算・目標申請・検証ツール(改訂ACA自動適用)
GHGプロトコルScope1〜3の排出量算定(目標設定の基礎データ)
SBTi FLAG Guidance森林・土地・農業部門の目標設定ガイダンス

成功のポイント

  1. 「今申請中」なら何もしなくて良い: バリデーションポータルが自動で改訂ACAを適用する。追加書類・再計算の必要なし。申請プロセスをそのまま継続する

  2. 2025年以降のベースイヤーを選んでも大丈夫: 旧ACAでは「ベースイヤーを遅くするほど年間削減率が急上昇する」問題があったが、改訂後はその歪みが解消。SBTiを躊躇していた企業が改めて申請を検討する良い機会

  3. ネットゼロ2050以前の設定は変わらず評価される: 2040年・2045年ネットゼロ等の高い野心は引き続き推奨。改訂ACAはあくまで「最低限の一貫性確保」であり、早期達成目標は追加的なクレジットとして評価される

日本企業への適用

日本では2026年以降、ISSB/SSBJに基づく気候関連開示の本格化に伴い、SBTi認定取得の問い合わせ・申請が急増している。改訂ACAは以下の場面で直接適用できる:

  • 製造業・商社(新規申請検討中): 旧ACAで「削減率が急勾配すぎて現実的でない」と申請を見送っていた企業は、改訂後の計算で実現可能なパスウェイが広がった可能性が高い。SBTiポータルで試算を行うことを今四半期中に実施する
  • ISSB/SSBJ開示対応担当: SBTi認定取得は「科学的根拠に基づく目標」として有価証券報告書・統合報告書での開示価値が高い。改訂ACAにより認定取得のハードルが下がったため、2026年開示サイクルに間に合わせるためのタイムラインを確認する
  • 5年更新期限を迎える企業: 2021〜2022年頃に初回認定を受けた企業は5年更新が近い。更新時は改訂ACAで再計算されるため、現行目標との差異を事前確認しておく