研究の概要
Pavel KiparisovとChristian Folberthは、208カ国・20の地政学的ブロックを対象に、天然ガス・肥料・主要穀物の国際貿易データ(1992〜2023年)を統合したカスケード崩壊モデルを構築し、グローバルな食料安全保障におけるエネルギー依存構造の脆弱性を定量化した。本研究の核心的問いは「エネルギー(天然ガス)サプライチェーンの崩壊が肥料生産を経て食料供給にどのように波及するか」であり、GX(グリーントランスフォーメーション)文脈でのエネルギー安全保障と食料安全保障の連関を数値で示した点に独自性がある。
主な発見・成果
- 完全な貿易孤立シナリオ下では、世界全体のカロリー消費量の最大22%が失われるという衝撃的な定量結果を導出した
- EUは1990年代以降、食料サプライチェーンの脆弱性が約2倍に増大しており、国際貿易依存度の高まりがリスクを増幅している
- 世界人口の半数が食料備蓄3ヶ月未満の国に居住しており、ショック耐性が極めて低いことが示された
- 天然ガスと鉱物肥料の生産集中がサプライチェーン崩壊の主要ボトルネックとして特定され、下流の農業生産への波及を引き起こす
- 地政学的ブロック別の脆弱性マッピングにより、最も打撃を受ける地域が特定された
実務への応用
GX推進企業・政策立案者にとって、「脱炭素化=天然ガス依存低減」は農業・食料システムの安定化にも貢献するという重要な副次便益(co-benefit)を示す研究として参照できる。実務的含意として、①サプライチェーン脱リスク戦略においてエネルギー・肥料・農業の三セクターのカスケードリスクを統合的に評価する必要性、②グリーンアンモニア・電気肥料製造への移行が食料安全保障リスク低減と気候変動対策の両立に寄与するという投資論拠、③カーボンフットプリント算定(スコープ3)において食料・農業セクターの天然ガス投入量を上流として適切に計上する重要性、の三点が浮かび上がる。