実装ステップ

化学品業界のScope3削減は、以下の手順で段階的に進める。

ステップ1:バリューチェーンの排出量マッピング

まず自社の化学品調達における上流Scope3排出を特定する。エチレン・プロピレンなど基幹モノマーの製造プロセスが主要な排出源となる。GHGプロトコルのScope3カテゴリ1(購入した製品・サービス)に基づき、サプライヤーへの排出データ開示要求を行う。

ステップ2:需要集約プログラムへの参加

個社では低炭素化学品への需要規模が小さく、サプライヤーの設備投資判断を促せない。GMA(食料品製造業協会)やRMI(ロッキー・マウンテン・インスティテュート)が主導する低排出化学品調達プログラムのような複数バイヤーによる需要集約スキームに参加する。購買コミットメントを束ねることでサプライヤーへの市場シグナルを強化できる。

ステップ3:EAC(環境属性証書)スキームの導入

物理的なグリーン製品輸送コストを回避するため、環境属性証書(EAC)を活用する:

  • Book and Claim方式:低排出化学品の環境価値をEACとして分離・流通させ、地理的制約なく調達可能にする
  • 認証スキームの選定:エチレン等の対象分子ごとに適切な認証体系を選ぶ
  • マルチ産業集約:アパレル・医薬品・日用品など共通の上流原料(エチレン等)を使う複数業界がEACを通じて需要を集約できる

ステップ4:多年度調達コミットメントの締結

単年コミットでは設備投資回収が見込めない。SAF調達のSABAモデル(持続可能な航空燃料バイヤーズアライアンス)を参考に、複数年オフテイク契約を締結してサプライヤーの投資判断を後押しする。

使うツール・標準

ツール・標準用途
GHGプロトコル Scope3カテゴリ1購入化学品の排出量算定基準
EAC(環境属性証書)グリーン価値の分離・流通手段
GMA-RMI低排出化学品調達プログラムエチレン等基幹分子の集約調達
SABA(持続可能航空燃料バイヤーズアライアンス)需要集約成功モデルの参考事例

成功のポイント

  1. コーディネーション問題を認識する:化学品サプライチェーンは数千種類の分子が絡み合い、単独企業での交渉力は限定的。業界横断的な連携が必須
  2. 中間サプライヤーの利益を設計する:薄利多売の中間業者がグリーン原料を購入するインセンティブを、EACによる環境価値の販売収益として設計する
  3. エチレンから始める:プラスチック・繊維・医薬品等に共通するエチレンは最も需要集約しやすい分子。最初の取り組み対象として優先する

日本企業への適用

日本の素材メーカー・消費財メーカーは、Scope3カテゴリ1(原材料調達)における化学品排出が報告されていないか過小評価されているケースが多い。以下の対応が有効:

  • 石油化学メーカーとの長期グリーン調達契約の早期締結(欧米での需要集約スキームが先行しており、遅れると競争上の不利になる)
  • 国内でのBook and Claimスキーム構築に向けた業界団体(JCIA等)での議論への参加
  • SBTiのScope3目標に基づく削減コミットメントを対外発表し、サプライヤーとの調達交渉力を高める
  • METIのサプライチェーン排出量算定ガイドラインとの整合を確認しながら、国際EACスキームの認証要件を把握する