背景:なぜ「水のスコープ3」が必要か
CDP水リスク開示やSBT for Nature(自然関連科学的目標)が普及する中、多くの日本企業の水目標は**自社の直接操業(直営工場の取水量削減)**に留まっている。しかし国際的な評価機関は、電力調達や原材料調達先における水消費・水質汚染が、直接操業よりはるかに大きいリスク源であることを指摘し続けてきた。
この課題に対応するため、CEO Water Mandate・SCS Global Services・WWF・WRIの4機関が共同で**「企業バリューチェーン向け水スコープ1-2-3アセスメントガイダンス」の策定を開始した(2026年中頃着手、2027年中頃ドラフト公開予定)。GHGプロトコルの温室効果ガス会計手法を水に応用したフレームワークであり、CDP・Alliance for Water Stewardship(AWS)等の既存基準を補完**する共通基盤として設計されている。
実装ステップ
Step 1:自社の「水スコープ」を定義する
- スコープ1(直接操業):自社工場・事業所の取水量・排水量・水質を把握する。既存のCDP Waterや環境省「環境報告ガイドライン」のデータを活用可能。
- スコープ2(電力調達由来):購入電力の発電に使われる水(冷却水・水力発電等)を推計する。電力会社の水ファクターデータやIEA水-エネルギーネクサスデータを使用。
- スコープ3(サプライチェーン・製品):原材料調達先・製品使用・廃棄段階の水消費・汚染を特定する。アパレル・化学・データセンター・食品の4業種が優先対象として明示されている。
Step 2:マテリアリティ評価でホットスポットを絞り込む
- WRIのAqueduct Water Risk AtlasやWWF Water Risk Filterを使い、サプライヤーの操業地域の水ストレスレベルをマッピングする。
- まず影響の大きいTier 1サプライヤーの上位10社から着手する。
Step 3:定量化と目標設定
- 各スコープの水消費量を「取水量(Withdrawal)」「消費量(Consumption)」「水質汚濁負荷」の3指標で整理する。
- CDP水リスク質問書(W6〜W8セクション)の回答と連動させ、投資家への開示フォーマットと統一する。
- SBT for Natureの淡水ターゲット設定に向けたベースラインとして活用する。
Step 4:サプライヤーエンゲージメント
- ホットスポットが特定されたサプライヤーに対し、AWSステワードシップ認証取得や水使用データ提出を要請する。
- 自社調達基準(サステナブル調達方針)に水スコープ3の評価指標を組み込む。
Step 5:ガイダンス公開後の整合確認(2027年以降)
- 本ガイダンスのパブリックコメント期間(着手から12か月後)に自社データを照合し、方法論の一貫性を検証する。
- GHGスコープ3と同様、段階的な精度向上を前提に毎年更新サイクルを設ける。
使うツール・標準
| ツール・標準 | 用途 |
|---|---|
| WRI Aqueduct Water Risk Atlas | 水ストレス地域マッピング |
| WWF Water Risk Filter | サプライチェーン水リスク評価 |
| CDP Water Security質問書 | 投資家向け開示フォーマット |
| Alliance for Water Stewardship(AWS) | サプライヤー認証基準 |
| GHGプロトコル(参照モデル) | スコープ1-2-3の概念的枠組み |
| SBT for Nature(淡水ターゲット) | 科学的目標設定 |
| 環境省「環境報告ガイドライン2022」 | 国内開示との接続 |
成功のポイント
- 既存のGHGスコープ3作業を流用する:サプライヤーマッピングや排出係数収集の仕組みをそのまま水に転用できる。担当チームが重複するため、統合プロジェクトとして進める方が効率的。
- 「精度より網羅性」を優先する:最初から精緻なデータを求めず、スコープ3全体の概算値でホットスポットを特定することを優先する。詳細化は翌年以降でよい。
- 複数基準の重複作業を排除する:本フレームワークはCDPやAWSを代替しない。共通のデータ収集テンプレートを一本化し、各基準への提出を自動化する設計を早期に構築する。
日本企業への適用
日本では経済産業省が「GXリーグ」「TNFDレポーティング」「カーボンニュートラル行動計画」を通じて自然資本・水リスクの開示を促進している。
- **TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)**のLEAPアプローチの「依存性・影響評価」ステップに、水スコープ1-2-3のデータをそのまま組み込める。
- GXリーグ2026年度報告において、サプライチェーン水リスクの定量的開示を求める動きに先行対応できる。
- アパレル・食品・化学・データセンター業種は本ガイダンスの優先セクターであり、業界団体経由でワーキンググループへの参加を検討する価値がある。