研究の概要
インバータベースリソース(IBR)—すなわち太陽光・風力発電・蓄電池などの電力変換装置を介した電源—が電力系統の大部分を占めるようになるにつれ、従来の同期発電機を前提とした系統制御手法が通用しなくなってきている。本研究はこの課題に対し、IBRの物理モデルを一切必要とせず、観測された入出力データのみから周波数二次制御を行うデータ駆動型クープマン予測制御(DKPC)フレームワークを開発した。
クープマン理論は、非線形な動的システムを高次元の線形空間に持ち上げる数学的手法。これにWillemsの基本補題(入出力データから直接システム挙動を予測する理論)を組み合わせることで、パラメトリックモデルなしの予測制御を実現した。
主な発見・成果
フレームワークの技術的特長:
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完全データ駆動:IBRのパラメトリックモデルが不要。実際の入出力観測データから直接制御則を構成
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非線形→線形変換:クープマン理論により高次元線形表現に変換し、線形MPC理論の豊富な実装ツールを活用可能
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制約明示的な制御:制御入力と系統出力(周波数偏差等)への明示的な制約を組み込んだ後退地平線制御を実現
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チューニング柔軟性:重み付けパラメータ調整により、追跡精度と制御努力のトレードオフを目的に応じて調整可能
数値シミュレーションにより、既存のデータ駆動予測制御手法(DeePC)と比較して周波数制御性能で優位性を確認。系統パラメータが未知または変動する環境でも安定した制御性能を維持する。
実務への応用
再生可能エネルギー事業者・系統運用者・蓄電池アグリゲーターへの実務的示唆:
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IBRの周波数調整力市場参加:詳細なモデリング不要でIBR(特に蓄電池・太陽光インバーター)を周波数調整力市場に参加させるコントローラー設計の基盤として活用できる。
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異なるメーカー機器の標準化対応:複数のIBRメーカーが混在する大規模VPPやマイクログリッドで、機器固有のモデルなしに統一的な制御フレームワークを適用できる。
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系統パラメータ変化への適応:系統構成の変化(設備更新・新規接続等)の度に制御モデルを更新する必要がなく、データ再収集・再訓練のみで適応可能。
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マイクログリッド・オフグリッド系統への展開:孤立系統(離島・工場・キャンパス等)でもIBRベースの高品質な周波数制御を実現できる実用的フレームワーク。