実装ステップ

SBTiは2026年5月21日に2026〜2030年戦略を公表し、「目標設定機関」から「変革パートナー」への転換を宣言した。企業にとって意味のある実装上の変化は以下の通り。

ステップ1:セクター別ガイダンスの最新版を確認する 新戦略の最重点施策の一つは「Action-Focused Standards」——つまり、科学的根拠を商業的に実行可能な形で翻訳したセクター固有のガイダンスの整備だ。鉄鋼・セメント・化学・農業・金融等の高排出セクターについて、順次詳細手順書が更新される。SBTiウェブサイトの「Resources」セクションを定期確認し、自社セクターに該当するガイダンス更新を把握する。

ステップ2:ピアベンチマーキングツールを活用する 新戦略ではデータ透明性と「システムレベルでの進捗評価」が強調される。今後SBTiが提供予定の「peer benchmarking」機能を活用し、同業他社の削減ペースと自社の進捗を比較できる。この機能が提供開始されたら、競合他社との対比ポジションを経営層向けレポートに組み込むことで、意思決定の加速に活用できる。

ステップ3:複数の気候フレームワークの整合を確認する SBTiの戦略にはフレームワーク間の重複・整合性確保も含まれる。現在企業が直面する課題の一つは、TCFD、ISSB、CDP、SBTi、GHGプロトコル等のバラバラな要求への対応コストだ。2026〜2030年にかけてSBTiは他のフレームワーク提供者との協調を強化する方針のため、自社の気候報告プロセスを「共通プラットフォーム対応」に刷新する好機が来る。

ステップ4:移行リスクを財務インパクトに換算する体制を構築する 新戦略が強調する点として「コスト上昇・需要変化・規制不確実性・投資家期待」への対応がある。これらをESGレポートの定性記述にとどめず、財務モデルに落とし込む体制(気候VAR分析等)を整えることが、今後のSBTi要求とも整合する方向性だ。

使うツール・標準

  • SBTi Strategy 2026-2030文書:全文公開、戦略の詳細説明
  • SBTiセクター別ガイダンス:各産業の具体的削減パスウェイ(公式サイトで随時更新)
  • CDP報告プラットフォーム:SBTiコミットメントと連動した定期報告に対応
  • GHGプロトコル:SBTiの排出量算定根拠となるグローバル標準

成功のポイント

  1. 「目標設定完了」で終わらせないこと:SBTiの最大の戦略転換は「コミット済み・未認定企業13,000社以上」の実装支援に注力することだ。目標設定後の削減施策実行のための人員・予算・KPIを早期に確保する。

  2. 「pre-competitive collaboration」の場を活用する:SBTiは今後、競合他社間での非競争領域における知見共有プラットフォームを拡大する。業界団体や業界横断グループ内で排出量算定手法・サプライヤーエンゲージメント手法を共有する取り組みへの参加を検討する。

  3. 高排出地域・セクターへの影響力を意識したバリューチェーン戦略:SBTiは拡大対象として「高排出地域・セクター」を明示した。日本の製造業者がアジア新興国サプライヤーのSBTi取得を支援することは、自社Scope 3の削減にも直結する。

日本企業への適用

日本企業は現在1,000社超がSBTiにコミット済みで、アジア最大の参加国となっている。今回の戦略転換は特に以下の点で日本企業に影響する。

製造業のScope 3 Cat.1(購入した製品・サービス)対応:SBTiの新セクターガイダンスにより、日系製造業の最大課題であるサプライヤー排出量の管理手法が明確化される見込み。現在自社でサプライヤーエンゲージメントプログラムを設計中の担当者は、このガイダンス更新を待ってから手法を確定させることも一案。

GX推進法との整合:日本のGX推進法のもとで策定されるセクター別ロードマップとSBTiのセクター別ガイダンスは相当程度整合する方向にある。両者の要求を同一の削減計画で充足できる「ワンソース戦略」が今後重要になる。