研究の概要

電力系統の三次電圧制御(TVC)は、系統全体の電圧プロファイルを安定させるために発電機の無効電力出力を調整する運用タスクである。再生可能エネルギーの変動が大きくなると電圧逸脱が頻発しオペレーターの負担が増す。特に国規模の大規模系統では最適化計算に時間がかかり、リアルタイム運用への適用が難しい。

本研究は、TVCを「償却最適化(Amortized Optimization)」問題として定式化し、グラフニューラルネットワーク(GNN)の自己教師あり学習で解くアプローチを提案する。系統トポロジーをグラフ構造として表現するGNNは、バス(ノード)と送電線(エッジ)の接続関係を自然に扱え、系統規模が変化しても対応しやすい。

主な発見・成果

  • フランス全国系統での実証: フランスのTSO(RTE)が提供する1年分の予測データで学習し、国全体の系統規模での適用可能性を実証
  • 電圧違反の大幅削減: 予測パイプラインの後処理ツールとして適用した際、電圧違反件数を有意に削減
  • 自己教師あり学習の有効性: ラベルなしデータで学習できるため、最適解の計算が難しい大規模系統でも実用的な品質の制御器を訓練できる
  • 計算速度の優位性: 従来の最適化ソルバーと比較して推論段階での計算速度が大幅に向上

実務への応用

日本の一般送配電事業者は、再生可能エネルギーの変動増加に伴う電圧管理の複雑化に対応するため、AI・機械学習を活用した系統運用の高度化を進めている。

GNNベースの電圧制御ツールは、オフラインで大規模系統データを使って学習し、リアルタイム運用の後処理ツールとして展開するという実装パターンが現実的。既存の最適化・EMSを完全に置き換えるのではなく補完的なツールとして導入しやすい。特に電圧不安定が問題になりやすい再生可能エネルギー集中連系エリアでの集中投資が効果的。また、GNNは系統トポロジー変化にも比較的ロバストなため、計画停電・切替作業が多い実運用環境での活用が期待できる。