研究の概要
太陽光・風力発電の急拡大に伴い、電力系統全体でインバータベースリソース(IBR)の割合が増加している。IBRは電力変換器を通じて系統に接続されるため系統に慣性を供給しない。これにより系統全体の慣性が低下し、大規模外乱時の周波数変動が急激になるという問題が生じている。
IBRのコントローラーパラメータを適切に設定することで周波数応答を改善できるが、複数のIBRを系統全体で協調してチューニングする問題は、系統全体の非線形ダイナミクスを正確にモデル化する必要があり、従来手法では限界があった。本研究は高忠実度電力系統シミュレーターを「ブラックボックス評価関数」として使い、明示的な数学モデルなしに複数IBRのコントローラーパラメータを協調最適化する「PMZO-Adam」アルゴリズムを提案する。
主な発見・成果
- モデルフリー最適化の有効性: 系統の数学モデルを必要とせず、シミュレーターによる評価のみで複数IBRの協調チューニングを実現
- 過渡周波数応答の大幅改善: 大規模外乱時の周波数偏差(ナディア)・周波数変化率(RoCoF)の両方を改善
- PMZO-Adamの優位性: 確率的ゼロ次最適化と適応モーメント推定(Adam)の組み合わせにより、従来のゼロ次最適化より高速・安定に収束
- スケーラビリティ: 多数のIBRコントローラーパラメータを同時に最適化できることを確認
実務への応用
日本の系統でも太陽光・風力の増加に伴い慣性低下による周波数安定性の課題が顕在化しており、一般送配電事業者は新しい系統安定化手段を模索している。このモデルフリー協調チューニング手法は、既存の電力系統シミュレーション環境(PSS/E、PSCAD、PowerFactory等)を活用して新たな数学モデル構築なしにIBRのパラメータ最適化が行えるため、実際の運用現場への適用が現実的である。
系統安定化検討を行う一般送配電事業者の技術部門は、この手法を「大量再生可能エネルギー統合後の系統周波数安定性評価・パラメータ設計ツール」として活用できる。太陽光・風力発電所の接続検討・系統影響評価においても、実際の系統シミュレーターを使った協調チューニング最適化が設計品質を高める。再生可能電源アグリゲーターも保有する分散電源群のIBRコントローラーを協調チューニングすることで系統サービス(FFR、一次調整力等)の提供品質向上が見込める。