実装のポイント

海運業界の脱炭素化において、船舶のエンジン改造や新造船を必要とせずに実施できる「バイオLNG」への燃料転換は、最も現実的かつ即効性の高い手法の一つである。川崎汽船は自動車専用船にバイオLNG(バイオ液化天然ガス)を継続使用する体制を確立し、年間60,800トンCO₂換算の温室効果ガス削減を実現した。

バイオLNGは家畜廃棄物・食品残渣などの有機廃棄物を嫌気性発酵させて生成されるバイオメタンを液化したもの。化石由来LNGと化学的に同一のため、既存のLNGエンジン・燃料設備をそのまま使用できるのが最大の特徴である。川崎汽船が使用するバイオLNGはISCC-EU(国際持続可能性カーボン認証)を取得しており、欧州再生可能エネルギー指令(RED)への適合を確保している。

具体的な手順

  1. LNG燃料船の保有確認:バイオLNGはLNG対応船にのみ適用可能。まず自社・用船中の船舶のうちLNG燃料エンジン搭載艦を特定する
  2. 認証済みバイオLNGサプライヤーの選定:欧州規制対応ならISCC-EU認証品、日本国内のJ-クレジット活用ならGHGプロトコルに準拠した第三者認証を持つ供給者を選ぶ
  3. 長期調達契約の締結:価格安定・供給量確保のため、スポット調達ではなく長期供給契約を締結する。川崎汽船もこの方式を採用
  4. GHG削減量の算定(ウェルトゥウェイク):バイオLNGのGHG削減効果はライフサイクル全体(生産〜燃焼)で評価する。使用するバイオLNGのCIスコア(Carbon Intensity)を供給者から取得し、従来の化石LNGとの比較で削減量を算定する
  5. 荷主への「環境価値」の提供:自動車メーカー等の荷主はサプライチェーン排出(Scope3 カテゴリ4 上流輸送)の削減実績として計上可能。荷主との契約に「グリーン海運サービス」として組み込むことができる

得られた結果

川崎汽船の継続使用体制により、年間60,800トンCO₂換算のGHG削減を実現(ライフサイクルベース)。設備投資を必要とせず既存船でそのまま実施できるため、ROI(投資対効果)の面で優れる。また荷主企業の視点では、川崎汽船の自動車船を使用するだけでサプライチェーン輸送のCO₂削減実績を得られる「環境バリューチェーン」が構築されている。2050年ネットゼロ目標に向け、新造船への代替燃料対応を待たずに既存船隊で脱炭素を進める実践的アプローチとして注目される。