背景と概要
セメント・コンクリート産業は世界のCO2排出量の約8%を占める難脱炭素セクターだ。製造拠点が世界中に分散しているため、物理的な低炭素製品を調達しようとすると輸送コストと供給制約が壁になる。RMIとCenter for Green Market Activation(CGMA)は2026年4月、「ブック&クレーム」という代替的な証書モデルを使った低炭素セメント・コンクリート調達フレームワークを公開した。再エネ電力のREC(再エネ証書)と同様の仕組みをセメントに適用することで、物理的なサプライチェーンを超えたScope3削減が可能になる。
実装ステップ
ステップ1:ブック&クレームの仕組みを理解する
ブック&クレームは環境属性証書(EAC)を通じて低炭素属性を取引する仕組みだ:
- 低炭素セメントメーカーがEACを発行(「ブッキング」)
- 購入者がEACを購入して排出削減をクレーム(物理製品と独立して流通)
- 物理的に異なる地域のメーカーから証書だけを調達できる
ステップ2:対象製品・適格基準を確認する
フレームワークは3つの機能単位を対象とする:
- クリンカー(最上流:セメント原料)
- セメント(中間材)
- コンクリート(最も包括的・最終製品)
GCCA(全球セメント・コンクリート協会)のLow-Carbon Ratingが適格基準:
- 2030年まで:「C」レーティング(ベースライン比約40%削減)以上
- 2030年以降:「B」レーティング(ベースライン比約50%削減)以上
ステップ3:6つの設計原則でフレームワークを評価する
RMI/CGMAが示す6原則でプログラムの品質を評価:
- 信頼性(Credible):大気中の排出削減効果を保証
- 使いやすさ(Usable):市場取引が明確・円滑
- 適合性(Compatible):既存規制・会計基準と整合
- 網羅性(Comprehensive):電化・代替燃料・CCUSなど複数脱炭素経路に対応
- 統一性(Unifying):途上国を含む地理的公平性の確保
- 適応性(Adaptable):将来の新技術・基準変更に対応できる設計
ステップ4:購買者連合に参加してスケール効果を得る
SCoBA(Sustainable Cement and Concrete Buyers Alliance)等の購買者連合を活用:
- 個社単独では交渉力が限られるため、需要集約で影響力を発揮
- 長期購買コミットメントがメーカーの低炭素投資を促す
- 業界横断的なシグナルが市場標準の形成を加速する
ステップ5:二重計上防止ルールを理解してGHG報告に反映する
- EAC購入者:Scope3削減量として自社GHGインベントリに計上可能
- 物理製品受領者(EAC未保有):「革新的素材を使用した」という定性的クレームのみ可(排出削減量の数値計上は不可)
- SBTi Scope3目標やGHGプロトコルScope3カテゴリ1への計上方法を事前に確認する
使うツール・標準
| ツール/標準 | 用途 |
|---|---|
| GCCA Low-Carbon Rating System | 低炭素セメントの適格基準判定(C/B/Aランク) |
| RMI/CGMA ブック&クレームフレームワーク | EAC設計・運用・評価の参照標準 |
| SCoBA(購買者連合) | 需要集約・メーカー交渉・共同調達 |
| GHGプロトコル Scope3 カテゴリ1 | 調達材料の排出量算定・報告 |
成功のポイント
- 物流制約を超えた低炭素調達が可能:欧州の低炭素セメントメーカーから日本向けEACを購入するなど、物理輸送コストなしにScope3削減を実現できる。再エネ証書(J-クレジット・I-REC等)と同様の考え方で理解・運用できる。
- 需要集約が普及のカギ:1社単独では交渉力に限界がある。業界団体・業界横断的な購買者連合を通じた共同調達を検討する。
- 2030年以降の基準強化を見越した契約:C評価(2030年以前)→B評価(2030年以降)と適格基準が段階的に厳しくなる。長期契約ではこの変更を織り込んだ条項を設ける。
- 規制対応との相乗効果:EU Carbon Border Adjustment Mechanism(CBAM)対応でもセメントの排出強度証明が求められる。EAC調達と組み合わせた一元的なバリューチェーン管理が効率的。
日本企業への適用
建設・インフラ・製造業でセメント・コンクリートを大量使用する日本企業にとって、GHGプロトコルScope3カテゴリ1(購入した製品・サービス)の削減に直接使える手法だ。SBTi認定企業や、CDP・TCFD開示でScope3削減コミットを掲げている企業は、GCCAレーティング付き低炭素セメントのEAC調達を検討する価値がある。日本のゼネコン・デベロッパーへの展開も有効で、建設仕様書に「GCCAレーティングC以上のセメント使用またはEAC調達」を組み込むことで設計段階からScope3削減を実現できる。国内では日本セメント協会の低炭素ロードマップとの整合も確認しておきたい。