研究の概要
電力貯蔵システム(BESS)の収益化において、従来のモデルは単一市場への参加のみを想定しており、複数の相互接続された電力市場に同時参加することによる価値最大化の手法は確立されていなかった。欧州のように国境をまたいで電力市場が連系している環境では、蓄電池をインターコネクタ(国際連系線)のエンドポイントに配置することで、電力価格差を活用したより高度なアービトラージが可能になる。
本論文は、AC・DC双方のインターコネクタで連系された複数の日前市場に参加するグリッドスケール蓄電池の収益最大化問題を最適化モデルとして定式化した。蓄電池の容量制約・出力制限・コンバーター損失・インターコネクタ損失・市場別の売買価格を明示的にモデル化し、非線形要素を混合整数線形計画問題(MILP)に変換する離接線形化を採用。ベルギー-英国間の8年間の価格データで検証した。
主な発見・成果
- 収益40%超向上: クロスボーダー参加により単一市場参加と比較してアービトラージ収益が40%以上向上することを定量的に実証
- 混雑の影響: インターコネクタの混雑が達成可能な収益を大幅に低下させる。系統混雑を事前に予測・考慮したスケジューリングが重要
- 同時充放電保証: 最適解において蓄電池は常に全参加市場から同時に充電または放電する動作となり、運用の整合性が確保される
- 疑似効率項の導入: 収益性の低い充放電サイクルをフィルタリングする「疑似効率項」を導入し、蓄電池の実質利用率を向上させる
- 8年間(約3000日)の実価格データで汎用性を確認
実務への応用
グリッドスケール蓄電池の事業者・系統運用者・エネルギートレーダーへの示唆:(1)欧州型の市場連系環境に近い将来の日本においても、送電連系の強化と電力市場間の価格差を活かした蓄電池アービトラージ戦略が有効になる可能性がある。現時点では国内市場でも時間帯別・エリア別価格差を活用した最適スケジューリングとして応用可能。(2)蓄電池事業のファイナンスモデルに複数市場参加による増分収益を組み込むことで、従来の単一市場想定より大幅に高い事業IRRを試算できる。(3)系統混雑の予測精度が収益最大化の鍵であり、日本の再エネ大量導入後の混雑パターンを先読みした蓄電池立地・容量計画が重要になる。