背景と概要

EU森林破壊防止規制(EUDR:EU Deforestation Regulation)は2026年12月に完全施行を迎える。対象7品目(木材・牛・カカオ・コーヒー・パーム油・天然ゴム・大豆)とその加工品をEU市場で販売・輸入する企業は、製品が「2020年12月31日以降の森林破壊・森林劣化に関与していない」ことを証明するデューデリジェンスを実施し、ステートメントを提出しなければならない。WRIは2026年4月、一部の改正提案(「ノーリスク」カテゴリーの新設)がこの義務を実質的に骨抜きにするリスクを指摘し、現行フレームワークの維持を主張した。

実装ステップ

ステップ1:自社サプライチェーンのEUDR対象品目を特定する
以下の7品目とその加工品を含む調達・製品ラインを洗い出す:

  • 木材・紙・パルプ・家具
  • 牛肉・牛皮革・牛乳製品
  • カカオ・チョコレート・カカオバター
  • コーヒー(生豆・焙煎豆・抽出物)
  • パーム油・パーム核油とその誘導品
  • 天然ゴム・タイヤ・ゴム製品
  • 大豆・植物油・飼料

ステップ2:原産地リスク分類を確認する
EUDRは調達国を3段階に分類する:

  • 低リスク国:簡略化されたデューデリジェンスが可能(実質的な義務軽減)
  • 標準リスク国:標準的なデューデリジェンス手続きが必要
  • 高リスク国:より詳細なリスク評価・軽減措置が必要

重要:製品が第三国経由で加工・輸出されている場合、加工国ではなく原産地(収穫地)のリスク分類が適用される。第三国での再輸出によるリスク回避はできない。

ステップ3:収穫地レベルの地理情報を収集する
従来の「サプライヤー証明書」では不十分。以下の情報を収集する必要がある:

  • 農場・林地の地理的位置情報(座標またはポリゴン境界)
  • 生産者・中間取引業者の識別情報
  • 2020年12月31日時点の土地利用状況の証明(衛星データ等)

サプライヤーへのデータ要求の標準的な方法:EU情報システムへの報告フォーマット、またはGlobal Forest Watch等の外部ツールとの照合。

ステップ4:リスク評価と軽減措置を実施する
標準・高リスク国からの調達では以下を実施:

  • 衛星データ(Global Forest Watch等)による土地利用変化モニタリング
  • FSC(森林管理協議会)・RSPO(持続可能なパーム油のための円卓会議)等の第三者認証との照合
  • 高リスクサプライヤーへの改善指導または代替サプライヤーへの切り替え判断

ステップ5:デューデリジェンス・ステートメントをEU情報システムに登録する
EUへの輸入・EU市場での製品販売前に、EU情報システム(TRACES等)を通じてデューデリジェンス・ステートメントを電子登録する。登録済みステートメントのリファレンス番号が通関時に必要になる。

使うツール・標準

ツール/標準用途
EU EUDR国別ベンチマーキングシステム調達国のリスク分類確認(低/標準/高)
Global Forest Watch衛星データによる森林破壊モニタリング・土地利用変化検証
EU情報システム(IS)/ TRACESデューデリジェンス・ステートメントの電子登録
FSC / RSPO / RTRS等認証デューデリジェンスの補完証拠として活用
Trase / Satelligenceサプライチェーンの森林リスクマッピングツール

成功のポイント

  • 収穫地レベルのデータ収集が最大のハードル:多段階のサプライチェーンで農場レベルの地理情報を取得するには時間がかかる。2026年12月の施行に間に合わせるため、今すぐサプライヤーへの情報要求を開始する。
  • 改正提案の動向を監視する:「ノーリスク」カテゴリー新設など複数の改正案が浮上しているが、現行義務は有効。「様子見」ではなく現行要件に基づいて準備を進め、改正が確定したら対応を調整する。
  • Scope3情報収集と統合する:GHGプロトコルScope3カテゴリ1(購入した製品・サービス)のサプライヤーデータ収集と同時並行で進めることで効率化できる。EUDRのサプライヤーアンケートにGHG排出量データ要求を組み込む設計が有効。
  • ノーリスク国への調達シフトを検討する:高リスク国からの調達は大幅なデューデリジェンスコストを発生させる。長期的にはリスク分類の低い国・認証取得済みサプライヤーへの切り替えがコスト最適化につながる。

日本企業への適用

EU向けに木材・紙・食品・ゴム製品等を輸出する日本企業は直接対象となる。欧州に子会社・販売拠点を持つ企業も、グループ全体としてのコンプライアンス対応が求められる。SBTi FLaG(Forest, Land and Agriculture)ガイダンスへの対応とも親和性が高く、同時進行で整備することが効率的だ。農林水産省の「グリーン調達」指針やSGEC/PEFCの国内認証制度を活用しつつ、EU要件との整合を確保することが求められる。特に自動車部品(天然ゴム)・食品・紙・パルプ業界は対応の優先度が高い。