研究の概要

鉄鋼製造は世界全体の炭素排出量の約7〜8%を占める脱炭素困難セクターの代表格であり、リサイクル(電炉・EAF活用)の拡大が排出削減の主要経路の一つとされている。しかしリサイクルを拡大する際の実務的障壁が「スクラップ組成の不均一性」である。投入するスクラップ鉄の元素組成(炭素・マンガン・シリコン等の含有量)が正確にわからないと、精錬プロセスの最適制御ができず品質・歩留まり・エネルギー消費率が低下する。

本研究は、電気弧炉(EAF)および転炉(BOF)における鋼スクラップ組成を既存の操業データから状態空間モデル+カルマンフィルタでリアルタイム推定する手法を開発した。ArcelorMittal(世界最大の鉄鋼メーカーの一つ)の実製造データでの検証により、実用的な有効性を確認している。

主な発見・成果

  • 既存操業データのみを使ったリアルタイムスクラップ組成推定を実現(追加センサー不要)
  • 既存のベースライン手法を上回る推定精度を達成
  • スクラップ組成の把握によりリサイクル材料使用量の拡大と天然鉱石採掘量削減が可能に
  • ArcelorMitttalの実工場データで検証済みの産業スケール適用可能性
  • スクラップ組成情報から将来の鋼材元素組成予測も可能であり、品質管理への応用が期待される

実務への応用

日本の鉄鋼業界(新日鐵住金・JFEスチール等)は電炉化率の向上とともに高品位スクラップの確保・管理が重要課題となっている。本技術を生産管理システムに統合することで以下が期待できる:①電炉操業の精精細化によるエネルギー原単位の削減(Scope 1排出削減)、②リサイクルスクラップ投入比率の向上(天然資源使用量削減)、③スクラップ組成の不確実性に起因する品質ロスの削減。カーボンニュートラル製鉄への移行計画において、既存の高炉・転炉プロセスの効率化と並行して電炉化を進める際に、スクラップ管理技術の高度化は不可欠な要素である。追加ハードウェア投資なしに導入可能という点でコスト効率が高い。