研究の概要

再生可能エネルギーの大量導入に伴い、独立系蓄電事業者(ESO: Energy Storage Operator)がエネルギーアービトラージや予備力提供を通じて収益を得るビジネスモデルが各国で広がりつつある。しかし既存研究の多くは単一市場での運用最適化か同質な単一蓄電技術を前提としており、「異なる特性を持つ複数の蓄電システムを組み合わせ(ハイブリッド)、複数の市場に同時入札する」現実的な場面の分析は少なかった。

本研究は、価格形成能力(プライスメーカー)を持つESOが、電力量市場・予備力市場・リアルタイムバランス市場の3市場に同時参加する場合の、ハイブリッド蓄電システム(HESS)の最適容量計画と入札戦略を二層最適化フレームワークで定式化した。上層問題でESOの容量計画・入札を決定し、下層問題で市場清算をモデル化するBI-LEVELアプローチを採用している。

主な発見・成果

二層問題はベンダーズ分解アルゴリズムにより混合整数線形計画問題として求解される。主要な発見は以下の通りだ。

技術特性と市場特性の対応:高パワー密度型蓄電(大きい出力・容量比、リチウムイオン型)はエネルギーアービトラージに特化配置し、低パワー密度型蓄電(小さい出力・容量比、フロー電池型など)は予備力市場に特化配置する戦略が利益最大化に最適であることが示された。

内部電力融通の価値:グリッドアクセス制約(系統連系容量制限)が存在する場合でも、異種蓄電システム間の内部電力融通によって市場参加効率が維持されることが示された。これは系統制約の強い国内プロジェクトへの重要な示唆だ。

プライスメーカー効果:市場価格への影響力を考慮した容量計画(プライスメーカー)は、価格受容者(プライステイカー)前提の計画より収益が改善し、大規模ESOほどこの差が顕著になる。

実務への応用

日本のスポット市場・需給調整市場の整備が進む中で、蓄電事業者が複数市場を同時活用する戦略の重要性は高まっている。

蓄電プロジェクトの技術選定と容量配分:大規模蓄電プロジェクトの計画段階で、高速応答型(Li-ion等)と長時間型(フロー電池・圧縮空気等)を組み合わせる際の容量配分最適化手法として直接応用できる。

系統連系制約への対処:系統連系容量の制限という実際のプロジェクト制約下でも、内部融通設計によって事業価値を向上できることが示唆される。接続申請容量の戦略的設定に活用できる。

事業計画の収益評価:多市場同時参加を前提とした収益シミュレーションフレームワークとして、投資判断の精度向上に寄与する。