研究の概要

長時間エネルギー貯蔵(Long-Duration Energy Storage: LDES)は、再生可能エネルギー主体の電力系統において季節間・週間の電力需給変動を吸収するために不可欠な技術として注目される。しかしLDESは収益変動リスクが大きく、民間投資が進みにくいという構造的課題がある。

本研究は2035年の英国電力系統を想定した均衡モデルを用いて、LDES投資を促進するための4種類の契約支援メカニズムを、投資家のリスク回避度と費用対効果の観点から比較分析した。完全競争を前提とせず、リスク回避型投資家と不完全なリスク市場という現実的な条件下での分析である点が特徴的だ。

主な発見・成果

4種類の契約メカニズムはいずれもLDES容量目標の達成において有効であることが確認されたが、費用対効果とリスク分担の面では大きな差がある。

固定収益保証型契約(収益変動リスクを完全除去):最もコスト効率が高いが、運用インセンティブを弱める懸念がある。投資家のリスク回避度が高い局面で特に有効に機能する。

市場連動型契約(差金決済型など、市場価格へのエクスポージャーを維持):運用インセンティブを保持するが費用は高くなる傾向がある。市場成熟後に適した設計と言える。

投資家のリスク回避度が高いほど固定収益型契約がより有効に機能することが、均衡モデルによって明示された。不完全なリスク市場という現実的な条件下でも、適切な契約設計によってLDES投資が実現可能となることが実証された点は政策設計への示唆が大きい。

実務への応用

日本においても、容量市場や需給調整市場の整備に伴い、蓄電池・水素・熱貯蔵などのLDESへの投資促進が課題となっている。

制度設計への活用:LDES向け契約支援制度の設計(長期差金決済契約・容量払い制度の設計)において費用とインセンティブのバランスをどう取るかの検討材料となる。日本の長期脱炭素電源オークションの設計にも類似の論点がある。

フェーズ設計:投資家のリスク回避度が高い立ち上げ期(初期実証フェーズ)には収益保証型を採用し、市場成熟後はエクスポージャー型に移行するという段階的制度設計の論拠になる。

長期電力システム計画:再エネ主力化に向けた長期計画において、LDESの量・種別・契約設計を定量的に検討するための分析フレームワークとして活用できる。