概要
2026年7月、ロンドン気候行動週間でSBTi(科学的根拠に基づく目標設定イニシアティブ)が「企業ネットゼロ基準Version 2.0」を正式リリースした。100,000人以上が参加した同イベントでは、「気候変動対策は野心から実装フェーズへ移行した」というメッセージが繰り返された。本ガイドでは、V2.0の主要変更点と日本企業が取り組む際の実践的なステップを整理する。
実装ステップ
ステップ1:現状の目標をV2.0要件と照合する
SBTi V2.0では、Scope 2(購入電力)の算定方法が更新された。現行目標がV1.x基準で承認済みの場合、2027年末を目途にV2.0への移行申請が必要になる。まず自社の認定年と適用基準バージョンを確認する。
ステップ2:Scope 2算定方法の選択
V2.0は「マーケット基準法(市場ベース)」と「ロケーション基準法(所在地ベース)」の両方を求めるダブルカウント要件を明確化した。再生可能エネルギー証書(REC・Jクレジット等)の調達戦略を見直し、24時間マッチングへの対応可能性を検討する。
ステップ3:バリューチェーン削減計画の策定
V2.0ではScope 3(サプライチェーン排出)の目標設定が強化された。主要サプライヤーへのエンゲージメント計画(排出データ共有・削減目標の連携)を文書化し、マイルストーンを年次で設定する。
ステップ4:開示データの品質向上
「環境データを開示する企業は、開示しない企業と比べて移行リスクコストが大幅に低い」というエビデンスがLCAW2026で示された。CDP・TCFD準拠の開示を強化し、データの第三者検証体制を構築する。
ステップ5:内部炭素価格の設定
V2.0に基づく削減計画を社内投資判断と連動させるため、内部炭素価格(shadow carbon price)を設定する。最低でも1トンあたり$50〜80相当の価格設定が実装を加速させる。
使うツール・標準
- SBTi Corporate Net-Zero Standard V2.0(2026年6月公開)
- SBTi目標設定ツール(Target Validation Tool):オンライン申請ポータル
- GHGプロトコル・Scope 2ガイダンス(マーケット基準法の算定基準)
- CDP気候変動開示フレームワーク
- ISSB S2(IFRS気候関連開示基準)
成功のポイント
- 経営層の関与を早期に確保する:目標承認から実装計画への落とし込みには経営判断が不可欠。サステナビリティ担当者だけでなくCFO・CSOレベルの関与を作る。
- データ管理システムを先行整備する:Scope 3算定には購買・物流データとの統合が必要。ERPや調達システムとの連携を優先的に整備する。
- 移行期間を活用する:V2.0移行猶予期間中に内部体制(担当者・ツール・予算)を整えることで、認定取り消しリスクを回避できる。
日本企業への適用
日本では経産省「GX推進法」と東証プライム市場のTCFD開示要件が企業の脱炭素を後押しする。SBTi認定取得は国際的な取引先・投資家への信頼性訴求として有効で、特に輸出型製造業・大手小売・金融機関においてサプライチェーン全体の削減推進に活用されている。V2.0移行期限(2027年末予定)を見据えて2026年度中に現状診断を実施することが推奨される。