研究の概要

EVバッテリーの二次利用(定置用蓄電池への転用)は、バッテリーのライフサイクル全体でのカーボンフットプリント削減とコスト回収に重要な役割を果たす。しかし二次利用を実現するには、バッテリーモジュールを分解せずに個々のセルの健全性(SOH)を正確に評価することが必要だが、商業生産されたモジュールは通常、内部へのアクセスが困難な構造をしている。

本研究は、完全に組み立てられた商業EVバッテリーモジュールに非侵襲的にアクセスして個々のセルを診断できるハードウェアプラットフォームを開発した。電圧センサー・セルバランシング回路・マイクロコントローラーを統合した設計で、Audi e-tronの実車バッテリーパック全36モジュールを対象にテストした。

主な発見・成果

  • 非破壊診断の実現: モジュールを分解・改造することなく、全36モジュール・全セルの同時スクリーニングを実現
  • 電圧不均衡の定量化: モジュール内のセル間電圧差(不均衡度)を高精度で測定し、劣化の指標として活用
  • SOH評価の実用化: セルレベルの不均一性(容量劣化・内部抵抗上昇)を定量化し、二次利用可否の判定基準として使用可能
  • コスト効率: 市販の電子部品で構成された低コストシステムで実用レベルの診断精度を達成

実務への応用

日本では2030年代にかけてEVの大量普及が見込まれ、廃車・リース返却EVのバッテリー二次利用市場が急速に拡大する見通しである。バッテリーリユース・リサイクル事業者、EV中古車流通業者、定置用蓄電池メーカーは、このような非破壊診断プラットフォームをインラインテスト設備として早期に導入することで二次利用品の品質保証コストを削減し市場信頼性を高められる。

自動車メーカー・バッテリーメーカーも使用済みバッテリーの残存価値評価にこのような手法を活用することで、バッテリーパスポート制度対応や循環経済モデルの実現に貢献できる。EUのバッテリー規則(2023年発効)が要求するライフサイクルデータ管理・二次利用認証への対応においても、セルレベル診断データの蓄積が重要な資産となる。