実装ステップ

  1. フレームワーク選択: 自社の金融活動に応じて「近期基準(Near-Term Criteria)」または「ネットゼロ標準(Net-Zero Standard)」を選択する。貸付・投資のみの場合は近期基準が適用、保険引受や資本市場活動を含む場合はネットゼロ標準を検討する。

  2. 組織境界の定義: 多法人グループの場合、SBTiへの報告対象となる組織境界を明確に設定する。子会社・関連会社の包含基準を定め、文書化する。

  3. ポートフォリオスコープの特定: SBTi対象となる「スコープ内金融活動」を特定する。排出集約型セクターへのエクスポージャーを優先的に特定し、ポートフォリオセグメンテーションを実施する。

  4. 排出量計算: 金融機関固有の「保険関連排出量(Insurance-Associated Emissions)」の計算を実施。中小企業(SME)ポートフォリオに対しては代替的な計算アプローチを活用する。保険金請求に係る排出量の管理方法も設計する。

  5. 目標設定アプローチの決定: ビジネスモデルに応じた適切なターゲット設定手法を選択(気候整合目標に使用できるタクソノミーを特定する)。

  6. 森林破壊エクスポージャー評価: ポートフォリオ内の森林破壊リスクを評価し、化石燃料移行ポリシーを策定する。

  7. 目標登録・認定: SBTi Servicesにてアカウント登録し、必要書類を提出。コミットメント→目標提出→検証→認定のプロセスを経る。

  8. 進捗報告: 年次で進捗を計算・報告し、M&Aや事業変更時の目標再計算ルールを整備する。

使うツール・標準

  • SBTi Financial Institutions Getting Started Guide: フレームワーク選択と実装ステップの入門資料
  • SBTi Insurance Underwriting Explanatory Note: 保険引受ポートフォリオ向け実装ガイダンス(UNEP FIメンバーとの共同策定)
  • SBTi Near-Term Criteria for Financial Institutions: 貸付・投資活動向け近期目標基準
  • SBTi Net-Zero Standard: 包括的なネットゼロ目標基準
  • SBTi Services Platform: 目標登録・認定のオンラインポータル(sbtiservices.com)
  • PCAF(Partnership for Carbon Accounting Financials): 金融機関向けGHG算定標準

成功のポイント

  • 段階的なアプローチ: 全ての活動を一度に取り込もうとせず、まず排出集約型セクターへの貸付・投資から開始する
  • ケーススタディの活用: SBTiの説明ノートに収録されたイラストケースを参照し、自社の状況に近い事例を見つける
  • データギャップへの対処: SMEポートフォリオなどデータ取得が困難な場合、SBTiが認める代替的計算手法を積極的に活用する
  • 内部体制の整備: リスク管理・IR・サステナビリティ部門が連携できる社内ガバナンス体制を構築する
  • 早期コミットメント: SBTiコミットメント登録は目標設定より先に行えるため、まず登録から始めることで利害関係者へのシグナリング効果を得る

日本企業への適用

日本の銀行・保険・証券会社にとって、SBTi認定はTCFD開示やISSB(IFRS S2)への対応と親和性が高い。三菱UFJフィナンシャル・グループ、みずほフィナンシャルグループなど大手はすでに取り組みを進めているが、地域金融機関・中堅生損保の参入が今後の課題である。まず「Getting Started Guide」で自社に適用可能なフレームワークを確認し、PCAF基準に基づく融資ポートフォリオのGHG算定から着手することを推奨する。監督官庁(金融庁)の気候関連リスク管理ガイダンスとの整合性確認も並行して行うべきである。