SSBJ基準初年度適用企業の有報開示分析——2024/3期〜2026/3期の定量比較
日本版サステナビリティ開示基準(SSBJ基準)は、2026年3月期から時価総額3兆円以上の上場企業を対象に、有価証券報告書への記載が本格適用された。この初年度に、対象企業の開示は実際にどう変わったのか。EDINETに提出された有報の「サステナビリティに関する考え方及び取組」欄を、2024/3期・2025/3期・2026/3期の3時点で機械的に比較した。
対象とデータ
- 義務化対象企業: 時価総額3兆円以上・3月期決算の71社
- 比較対象企業: SSBJ基準の適用対象外となるTOPIX Small企業、30業種に分散させた61〜68社
- データ源: EDINET有報「第2 事業の状況 2 サステナビリティに関する考え方及び取組」本文
- 手法: 本文の文字数、およびTCFD関連キーワード(ガバナンス・戦略・リスク管理・指標及び目標・シナリオ分析・Scope1/2/3・第三者保証等)の記載有無をキーワード照合で機械的に検出
観測結果
1. 本文量の推移
| 区分 | 2024/3期 | 2025/3期 | 2026/3期 | 24→25 | 25→26 |
|---|---|---|---|---|---|
| 義務化対象(N=71) | 10,738 | 12,003 | 15,368 | +12% | +28% |
| 対象外(N=61) | 4,908 | 5,877 | 6,034 | +20% | +3% |
本文文字数(中央値)の推移をみると、2024→2025年(SSBJ適用前)は対象外企業の方が変化率が大きかったが、2025→2026年(適用初年度)は義務化対象企業の変化率が大きくなり、両区分の大小関係が入れ替わった。
2. 指標別の充足率(義務化対象71社)
| 指標 | 2025/3期 | 2026/3期 | 差分 |
|---|---|---|---|
| ガバナンス | 100% | 100% | ±0 |
| 戦略 | 100% | 100% | ±0 |
| リスク管理 | 97% | 97% | ±0 |
| 指標及び目標 | 87% | 92% | +3社 |
| シナリオ分析 | 75% | 75% | ±0 |
| 1.5/2/4℃シナリオ言及 | 68% | 73% | +4社 |
| Scope1/2言及 | 45% | 49% | +3社 |
| Scope3言及 | 38% | 41% | +2社 |
| 「TCFD」の明記 | 75% | 65% | −7社 |
| 第三者保証・検証への言及 | 31% | 32% | +1社 |
| 財務影響の金額的記載 | 25% | 25% | ±0 |
TCFDの中核4要素(ガバナンス・戦略・リスク管理・指標及び目標)の充足率は横ばいか上昇した。一方、「TCFD」という語自体を本文中に明記する企業の割合は75%から65%に低下した(71社中7社で、前年にあった明記が本年は見られない)。この7社の本文量は前年から減少しておらず、むしろ増加している企業が含まれる。この語が本文に現れなくなった要因(用語の統一方針、文書構成の見直し、レビュー体制の変更など)は、本データからは特定できない。
3. 業種別内訳
| 業種(N≧2) | 本文文字数の変化(中央値) | 「TCFD」明記の純増減 |
|---|---|---|
| 銀行業(N=6) | +133% | ±0 |
| 保険業(N=4) | +49% | −2 |
| 卸売業=総合商社(N=6) | +40% | −2 |
| 情報・通信業(N=5) | +14% | −3 |
| 機械(N=6) | +8% | ±0 |
| 電気機器(N=12) | +7% | +1 |
| 医薬品(N=4) | +3% | ±0 |
| 輸送用機器(N=5) | +2% | ±0 |
| 建設業(N=3) | −19% | ±0 |
本文量の増加率が高かったのは銀行業・保険業・卸売業(総合商社)で、自動車・電機・医薬品・機械は2〜8%の範囲にとどまった。「TCFD」の明記が減少した業種(情報・通信業、卸売業、保険業)は、本文量の増加率が高かった業種と重なっている。
方法論と限界
- 時価総額は2026年5月時点のスナップショット。決算期が3月以外の企業(12月決算・2月決算等)は対象から除外した。
- 各指標はキーワード・フレーズの機械的な照合による検出であり、内容の意味的な読解ではない。代表2社について本文を人手で確認した。
- 「TCFD明記率」の低下の要因は本データからは特定できず、因果関係の特定には至っていない。
本分析はEDINET公開データを機械的に集計したものであり、個別企業への評価・推奨を意図するものではない。