概要
SBTi(科学的根拠に基づく目標イニシアチブ)のCorporate Net-Zero Standard v2.0は、企業が残余排出量を除去しなければならない「継続排出責任(Ongoing Emissions Responsibility:OER)」フレームワークを導入した。特に食品・飲料・ファッション業界にとって重要なのが、サプライチェーン内への農業由来カーボン除去(バイオチャー等の「インセッティング」)の活用だ。
実装ステップ
1. OER義務の計算
OERは「ネットゼロ年に向けて年々増加する除去義務」として設定される。最大手企業への義務化は2035年だが、「義務履行の5年前から自発市場での調達開始が必要」とされるため、実質的には今すぐ動く必要がある。
2. Scope 3排出源の特定とインセッティング対象の選定
v2.0はサプライチェーン内の農業介入を Scope 3目標への有効な対策として明示的に認定した。自社のScope 3排出のうち農業・土地利用由来のホットスポットを特定する。
3. バイオチャー調達先の開拓
食品・飲料企業の場合:
- 原材料(穀物・乳製品・コモディティ)の調達先農家にバイオチャーを適用
- 農家との長期契約で除去クレジットを自社Scope 3目標に算入
繊維・ファッション企業の場合:
- 綿花・天然繊維の栽培地でバイオチャーを展開
4. 農業効果の二重便益の把握と資金化
バイオチャーは土地に施用することで:
- 炭素固定(耐久性除去):SBTi v2.0のOER対応に使用可能
- 収量向上:ボリビア実証試験でとうもろこし+15%、豆類+13%(肥料併用時+25〜32%)
- 保水・保肥性向上:化学肥料削減
収量向上効果を農家への経済的インセンティブとして提示することで、プロジェクト組成コストを下げられる。
5. 社内連携体制の構築
調達・サステナビリティ・財務の3部門をまたいだ内部体制が必要:
- 調達部門:農家・サプライヤーとのバイオチャー適用交渉
- サステナビリティ部門:除去クレジットのSBTi対応確認・MRV設計
- 財務部門:インセッティングプロジェクトへの資金配分
使うツール・標準
- SBTi Corporate Net-Zero Standard v2.0(OERフレームワーク)
- GHGプロトコル Scope 3カテゴリ1・2(購入物・サービス、資本財)
- バイオチャー品質基準:European Biochar Certificate(EBC)またはInternational Biochar Initiative(IBI)
- 自発市場クレジット:Verra VCS / Gold Standard
成功のポイント
- 今のうちに始める:OER義務が課される5年以上前からプロジェクト開拓を始めること
- 除去ではなく削減との組み合わせ:バイオチャーはあくまで「残余排出」対応であり、削減目標の達成が前提
- 耐久性除去にこだわる:SBTi v2.0は耐久性のある除去の一定割合を義務付けており、バイオチャー(50〜1000年炭素固定)はこれに該当する
日本企業への適用
日本の食品・農業関連企業(食品メーカー、総合商社、小売チェーン)にとって、Scope 3のCategory 1(購入原材料)は最大の排出源の一つ。バイオチャーの農業インセッティングは、農業Scope 3を「削減困難排出」として処理しながらサプライヤー農家を支援する実装手段として有効。国内では農研機構などがバイオ炭土壌施用の研究を進めており、国内調達ルートの構築も視野に入る。