実装ステップ
GHGプロトコルはScope 2(購入した電力由来の間接排出)の報告基準改訂を検討中であり、2026年7月に1,100件超のパブリックコメントを受けた。改訂案の内容と実務への影響を整理する。
現行のScope 2算定の2方式
- 立地ベース法:グリッド平均排出係数を使用
- 市場ベース法:電力証書(EAC)・再エネ電力購入契約(PPA)を使用して契約排出係数を適用(これが今回の改訂対象)
改訂案1:時間単位マッチング(Hourly Matching) 再エネ電力証書と実際の電力消費を「1時間単位」で一致させることを義務化する提案。現行では「年間マッチング」でよいとされているため、大幅な要件強化となる。
実務上の課題:
- 電力消費の時間別データの収集・管理が必要(スマートメーター・エネルギー管理システムの導入コスト)
- 時間単位マッチング対応の再エネ証書は市場供給が限定的でコスト高
- 夜間・ピーク時の電力消費をカバーする再エネ証書の調達が困難
改訂案2:デリバラビリティ要件 再エネ証書が自社の電力消費地点と物理的に同一の電力市場(グリッドゾーン)に属する発電所から発行されることを義務化。遠隔地の再エネ発電に由来する証書は使用不可になる。
実務上の課題:
- グローバル展開する企業は国・地域ごとに個別調達が必要になり、取引コスト上昇
- 再エネ資源の乏しい地域(日本の離島・内陸部など)での証書調達が著しく困難
- 長期PPAから短期スポット購入へのシフトリスク(価格変動リスク増大)
コンサルテーション結果(2026年7月時点)
- 時間単位マッチングへの支持:企業の12%のみ(82%が低い・なし)
- デリバラビリティへの支持:企業の19%のみ(71%が反対)
- 87%が「要件強化で自発的な再エネ市場への参加意欲が減退する」と回答
使うツール・標準
- GHGプロトコルScope 2ガイダンス(現行版・改訂版)
- 再エネ電力証書(EAC):J-クレジット(日本)、REC(米国)、GO(欧州)
- 24/7 CFE(Carbon-Free Energy)マッチング:Googleなどが先行導入
- CDP Scope 2回答フォーマット(立地ベース・市場ベースの両方開示が要求される)
成功のポイント
- 改訂案はまだ確定していない。GHGプロトコルは2026年9月の技術ワーキンググループ会合で方向性を検討し、追加コンサルテーションの可能性もある。最終基準は2027〜2028年以降と見込まれる
- 時間単位マッチングを将来的に義務化される前提で準備する先進企業は、エネルギー管理システムの整備・時間別電力データの収集・24/7 CFE対応PPAの検討を今から開始
- 改訂前の現行基準でも、立地ベース・市場ベースの両方を開示するのがベストプラクティス
日本企業への適用
日本では再エネ電力調達の手段として非化石証書・J-クレジット・FIT電力の再エネ証書(FIT非化石証書)が存在するが、これらが改訂後のGHGプロトコルの要件(特にデリバラビリティ)を満たすかどうかは不明確。日本企業は今から調達している証書の発電所位置・グリッドゾーンを記録しておき、将来の要件強化に対応できる証拠管理体制を整備することが重要。