はじめに

SupercriticalとGround Upが2026年9月に発表したインド・コルハプール地区でのバイオ炭(Biochar)ネットワーク拡大計画は、農業廃棄物の野焼きを炭素固定に変換しながら農業生産性も向上させる、二重の成果を実現する手法として注目されます。2028年までに5万トン以上の認証済みカーボンリムーバルを目指す本プロジェクトの仕組みと、日本企業が活用できる実務的観点を解説します。

バイオ炭(Biochar)とは何か

バイオ炭は農業廃棄物・木材廃棄物等の有機物を酸素のない環境で加熱する「熱分解( pyrolysis)」によって生成される炭素富化物質です。

主な特徴

  • 炭素固定期間:200年以上(大気中CO2の長期除去として最も信頼性の高い部類)
  • 土壌改良効果:水分保持・栄養素保持・微生物活性化
  • 廃棄物転換:農業廃棄物の野焼き(大気汚染)を有用物質に変換

Ground Upプロジェクト「Nandani」の仕組み

対象地域と規模

  • 場所:インド・マハーラーシュトラ州コルハプール地区
  • 対象廃棄物:サトウキビ残渣(年間200万トン発生、現在85%が野焼き)
  • 農家ネットワーク目標:最終的に55万農家規模
  • 2026年発行予定:2,500トンの認証済みクレジット
  • 2028年目標:5万トン以上の認証済みカーボンリムーバル

4ステップのオペレーション

ステップ1:原料収集 農家からサトウキビ等の農業廃棄物を収集。野焼きされるはずだった廃棄物を有料で回収することで農家の収入にもなります。

ステップ2:熱分解処理 バイオ炭製造施設で農業廃棄物を加熱処理。酸素なし・高温(400〜700℃)で炭化させます。

ステップ3:農地への施用 製造されたバイオ炭を農地に散布。土壌改良材として機能し、炭素が土壌中に固定されます。

ステップ4:認証・クレジット発行 Supercriticalが検証・認証プロセスを管理し、購入可能なカーボンリムーバルクレジットとして発行。

農業への共便益(Co-benefits)

フィールドトライアルで実証された農業生産性向上効果:

  • サトウキビ収量:38%増加
  • 小麦収量:59%増加
  • 土壌の水分保持能力向上により、乾燥ストレス下でも安定した収穫
  • 化学肥料使用量の削減(コスト削減)

実装ステップ(企業がバイオ炭クレジットを調達する手順)

ステップ1:バイオ炭の「永続性」を確認する

バイオ炭は炭素固定の永続性において以下の特性を持ちます:

  • 安定性:土壌中での分解半減期が100年以上(適切な品質管理の下)
  • 認証:EBC(欧州バイオ炭認証)・IBI(国際バイオ炭イニシアティブ)・Puro.earth等の標準確認
  • H:Corg比:0.7未満であれば高い安定性の指標

ステップ2:MRV方法論の確認

  • プロジェクトの計測方法(サンプリング頻度・分析手法)を確認
  • 炭素固定量の計算式と根拠データを入手
  • 第三者検証機関(VVB)の名称と認定資格を確認

ステップ3:共便益の定量的評価

  • 農業収量向上・野焼き削減・農家収入向上等の付随便益がプロジェクト文書に記録されているか確認
  • SDGsへの貢献(SDG 2: 飢餓ゼロ、SDG 15: 陸の豊かさ)として開示に活用できる

ステップ4:ポートフォリオ内での位置付け

  • バイオ炭は「長期固定型リムーバル」として位置付け
  • BECCS・DAC(直接空気回収)等の工業的リムーバルより低コストで、自然系より永続性が高い「中間的」カテゴリとして管理

使うツール・標準

  • EBC(欧州バイオ炭認証):バイオ炭品質の主要認証基準
  • Puro.earth:バイオ炭を含む工学的炭素除去のマーケットプレイス
  • Verra VM0044:バイオ炭を対象としたVCS方法論
  • SBTi BVCM(バリューチェーン外の緩和):自主的なカーボンリムーバルの活用ガイダンス

成功のポイント

  1. 廃棄物が原料なので「additionality(追加性)」が高い:野焼きという既存の排出をバイオ炭化することは、明確な追加的削減
  2. スケールが収率に直結する:農家ネットワーク規模が大きいほどコストが下がり、認証クレジットの単価も低下する傾向
  3. 農業セクターとのシナジー:農業系Scope3(カテゴリ1: 購入原材料)を抱える食品・消費財メーカーは、調達先の農業廃棄物リダクションとのダブルカウントに注意

日本企業への適用

  • 日本国内でも籾殻・麦藁等の農業廃棄物を使ったバイオ炭プロジェクトが始まっており、J-クレジット認定への動きがある
  • インドのプロジェクトは日本企業の国際的カーボンリムーバル調達先として検討可能
  • 食品・飲料・農業資材メーカーはバイオ炭の農業共便益(収量向上)を調達先農家支援として活用できる