概要

セメント生産は世界のCO2排出量の約8%を占める。そのうち60%が石灰石の化学反応(プロセス排出)、残り40%が焼成用化石燃料の燃焼だ。Electrified Thermal Solutions(ETS)社がHolcim(世界最大手セメント会社)と締結した実証プロジェクトは、セクター初の熱エネルギー蓄電(TES)バッテリーをセメント焼成工程に適用するケースとして注目される。最高1800℃の熱蓄積が可能な金属酸化物耐火レンガシステムが2027年初頭に稼働予定。

実装ステップ

  1. 焼成工程の温度・熱量要件の確定:セメントの焼成(仮焼)工程では900〜1500℃の熱が必要。自社プラントの熱需要プロファイル(温度帯・時間変動・最大需要ピーク)を詳細に分析する。ETSシステムは900〜1500℃域での放熱をサポートしており、Holcimプロジェクトもこの範囲で運用する。
  2. 電力調達・価格変動分析:蓄熱バッテリーの充電は系統電力を使用する。充電を再エネ余剰時(電力価格が安く、かつCO2強度が低い時間帯)に集中させることで、コストと排出削減を両立する。地域の電力市場の時間別価格と再エネ比率の推移データを取得する。
  3. システム構成の設計:金属酸化物耐火レンガの絶縁スタックに電気を流して発熱・蓄積し、放熱時には空気をレンガ上に流して高温ガスを生成し既存設備に供給する。蓄熱容量20MWh・最高温度1800℃の仕様を参考に、自社の熱負荷に合わせた容量を設計する。
  4. 既存キルン・仮焼炉との統合:蓄熱システムからの高温ガスを既存のロータリーキルン・仮焼炉の燃焼空気・補助熱源として供給する配管設計を行う。既設システムを大幅改修せずにバックフィット(後付け)できる設計が実現可能性を高める。
  5. 充放電スケジューリングシステムの構築:需要予測・電力価格・再エネ発電量予測を組み合わせた充放電最適化アルゴリズムを設計する。工場操業スケジュールと連携して熱需要と電力調達を自動マッチングする。
  6. 安全設計・耐火構造認証:1800℃運転には高温耐久材料・熱遮蔽・高温設備に関する法規制(消防法・高圧ガス保安法等)への適合が必要。設計段階から安全審査の専門機関と連携する。

使うツール・標準

  • ISO 50006 エネルギーベースライン設定手法
  • ASTM C1835(耐火材料の高温特性評価)
  • IEA セメント産業ロードマップ(2023年版)

成功のポイント

  • セメント焼成電化の最大障壁は「1500℃超の高温を再エネ由来電力で安定供給できるか」。蓄熱バッテリーはその答えとなる技術。ただし2027年のHolcim実証結果を注視し、商業規模での信頼性データが蓄積されてから展開判断をすることが現実的
  • Scope1の40%(燃焼分)を電化で削減しても、残り60%(プロセス排出)にはCCS/CCUSが必要。電化とCCS/CCUSの長期ロードマップを並行して策定する

日本企業への適用

太平洋セメント・住友大阪セメント等の国内大手は、Jクレジット・GX-ETS対応のためScope1削減が急務。蓄熱バッテリーによる焼成電化は、再エネ調達とセットで2030年以降の本格展開候補となる技術。国内での実証開始時期を把握する観点から、ETS・NEDO技術動向のウォッチを推奨する。