やったこと

企業の総排出量の7〜9割を占めるScope3(バリューチェーン排出量)は、自社だけでは削減できない。発注企業とサプライヤーが協働するサプライヤーエンゲージメントの現状・課題・実践手順を、調達・サステナビリティ担当者の実務目線で整理した。

具体的な手順・工夫

現状の課題整理

  • 発注側: 数百〜数千社のサプライヤー全てへの均一対応は現実的でない。担当者が限られた人員で対応し、データ収集依頼送付だけでも大きな事務負荷。
  • サプライヤー側: 中小企業では専任担当者・算定ノウハウ・対応予算が不足。「Scope3」という言葉自体を知らないケースも。
  • 共通課題: GHGプロトコルの解釈の難しさ、一次データ(実測値)と二次データ(業界平均値)の精度差、発注・受注間の信頼関係構築。

実務5ステップ

  1. 重点サプライヤーの絞り込み: Cat.1(購入製品・サービス)が総排出量の30〜60%を占める製造業では、購入額上位20〜30社から着手。マテリアリティマトリクスで優先順位を可視化。
  2. データ収集フォーマットの統一: CDP サプライチェーンプログラムへの回答依頼または独自調査票の標準化。WBCSD/GHGプロトコルのガイドラインに準拠したテンプレート活用。
  3. 能力構築支援: 中小サプライヤー向けにCO2算定ツールの使い方研修・費用補助を提供。「対応できない」を「対応しやすい」環境に変える。
  4. 共同削減プロジェクト: 省エネ改修の共同発注・再エネ電力の一括調達・物流効率化など、コスト削減を伴う削減策から着手することでサプライヤーの動機づけを確保。
  5. 進捗の可視化とフィードバック: 年1回の回答率・回答品質レポートをサプライヤーと共有し、優良対応企業を調達評価に反映。

外部環境の追い風

  • EU CBAM(炭素国境調整メカニズム): 鉄鋼・アルミ等の輸出サプライチェーンには排出量証明が取引継続条件化しつつある。
  • GXリーグ参加企業: サプライチェーン全体の削減取り組みが期待されるため、サプライヤーエンゲージメントの強化が参加要件的な位置付けに。

得られた結果

サプライヤーエンゲージメントを体系化した企業では、Scope3 Cat.1の算定精度向上(二次データ→一次データへの移行率向上)と、共同削減プロジェクトによる実削減の両方が実現している。

他社が参考にすべき点

  • 「全サプライヤー一律」は失敗の元: 購入額・排出量インパクト上位20〜30社を最初のターゲットに絞り、成功事例を作ってから横展開する。
  • コスト削減とセットで提案: 「排出量を測ってください」だけでは動かない。省エネ設備の共同発注・電力コスト削減など、サプライヤーにとっての経済的メリットと紐づけると協力率が上がる。
  • 社内部署の連携: CSR・調達・環境の3部署がバラバラに動くとサプライヤーに同じアンケートが複数回届いてしまう。社内ガバナンスの整備が先決。