概要

GXやScope3の推進現場では、同じ組織や会議に参加していても、立場によって見えている課題や前提が異なる。本章は、この認識のずれを「隣の人は、あなたと違う世界を見ている」という視点から捉え、脱炭素をめぐる議論がなぜ膠着するのかを考察する内容である。従来の「最大公約数社会」、すなわち多くの関係者が同意できる共通項を探す方法だけでは、複雑化したGX課題への対応が難しくなっている。そこで、異なる視点や利害を組み合わせ、全体として実行可能な解をつくる「最小公倍数社会」への転換が示唆されている。

ポイント

  • GX・Scope3の課題は、排出量の算定技術だけでなく、関係者間の認識や問題設定の違いにも左右される。
  • 同じテーマでも、経営、調達、営業、製造、物流などの部門ごとに、重視する指標や制約条件は異なる。
  • 会議の膠着は、意見の対立そのものよりも、各参加者が異なる「世界」を前提に議論していることから生じる場合がある。
  • 全員が納得する単一の正解を探すのではなく、複数の視点を接続し、役割分担や段階的な合意形成によって前進することが重要である。
  • Scope3対応では、データ収集・削減施策・取引先との関係構築を個別に扱わず、相互に結び付いた経営課題として捉える必要がある。

実務への示唆

Scope3の議論を始める際は、まず部門ごとの目的、制約、評価指標を可視化し、同じ言葉が異なる意味で使われていないかを確認するとよい。合意形成では最大公約数に絞り込むだけでなく、異なる前提を残したまま実行可能な接点を設計することが、GXを停滞させない鍵になる。

出典

第8章 GX・Scope3の現場で起きていること