概要
本稿は、企業の温室効果ガス排出量などの非財務情報が、どのような根拠と履歴に基づいて作成されたのかを追跡しにくい問題を描く。四月、推進室に異動した担当者が共有フォルダを開くと、「2025_GHG集計_v7_最終_修正版.xlsx」という、複数のシートと数式・手入力が混在したファイルが見つかる。係数の根拠は「工場ヒアリングによる」という注記にとどまり、誰が、いつ、どの情報を確認したのかは記録されていない。前任者も異動しており、データの作成者や確認者をたどる手がかりがない状態である。
ポイント
- ファイル名に「最終」「修正版」などが重なっても、版数や変更履歴が体系的に管理されているとは限らない。
- 数式で算定したセルと、途中から値を貼り付けたセルが混在すると、計算過程や再現性を確認しにくい。
- 「工場ヒアリングによる」という注記だけでは、情報源、回答者、調査日、採用理由、承認者を検証できない。
- 担当者の異動や退職によって、データの背景や判断理由が失われると、後任者は集計結果を再確認できない。
- 非財務情報にも、取引や仕訳を記録する財務会計の元帳に相当する、証拠・責任者・変更履歴の管理が必要になる。
実務への示唆
GHG排出量の算定では、結果の数値だけでなく、活動量、排出係数、出典、算定式、更新日、作成者、レビュー者、承認者を一連の記録として残すことが重要である。スプレッドシートを使う場合でも、入力値と計算ロジックを分離し、変更履歴と証憑へのリンクを管理することで、後任者や第三者が追跡・再計算できる状態を整えられる。
