概要
2026年10月、Science Based Targets Network(SBTN)が企業向け自然目標設定フレームワークの大規模アップデート「Science-Based Targets for Nature 2.0(SBTs for Nature 2.0)」を発表した。2023年の初版から実務上の課題(データ不足・バリューチェーンの可視性不足・柔軟性の欠如)を解消し、より多くの企業が実際に行動できる設計になっている。CEO Erin Billmanは「完璧なデータも、完璧な可視性も、完璧な条件も待てない」と述べ、今すぐ行動を始めるよう促している。
フレームワーク 2.0 の主要改善点
改善1:柔軟なターゲット設定パスウェイ
企業は準備状況・データ可用性・サプライチェーン可視性に応じて、以下の中から最適なアプローチを選択できる:
- スコープ限定型:影響の大きいビジネスユニット・地域から開始
- サプライヤーエンゲージメント型:直接操業でデータが取れない部分はサプライヤーエンゲージメント目標で代替
- 段階的バリデーション型:準備できた部分から順次認定を受ける
改善2:対象領域の拡大
- 淡水水質:農薬関連の影響評価を新たに含む
- 土地:耕作地の再生・回復への適用を拡大
- 新セクター対応:採掘・インフラ・建設・資源採取業種を対象に追加
改善3:実装重視の強化
目標設定だけでなく、具体的な行動への移行を支援:
- 対応オプションデータベース(業種別推奨アクションの一覧)
- 企業アクションプランテンプレート(実施計画の構造化ツール)
- 自然・気候トランジション戦略との統合ガイダンス
実装ステップ
ステップ1:自社の自然依存性・影響のホットスポットを特定する
SBTNが提供する「SBTN Corporate Guidance Step 1&2」を使用し、業種別インパクトドライバー(土地利用・淡水消費・汚染・種の攪乱・資源採取)を評価。
ステップ2:優先対象地と対象範囲を決定する
全操業・全バリューチェーンを均等に扱う必要はない。財務的・生態的に重要な地域・活動に絞って目標を設定することがSBTN 2.0では許容される。
ステップ3:目標設定パスウェイを選択してドラフト作成
以下の4種類のターゲットタイプから選択:
- Reduce(削減):自然への負の影響を削減
- Restore(回復):劣化した生態系を回復・再生
- Transform(変革):産業プロセス・サプライチェーンを根本的に変える
- Engage(エンゲージ):サプライヤー・ステークホルダーの変革を促す
ステップ4:SBTNへの認定申請
企業アクションプランテンプレートで内部的に計画を構造化した後、SBTNの公式ウェブサイト(sciencebasedtargetsnetwork.org)から認定申請を行う。
使うツール・標準
- SBTN Corporate Guidance(Step 1〜5)
- SBTNの対応オプションデータベース
- TNFD LEAP 2.0(自然リスク評価の補完ツール)
- GBS(Global Biodiversity Standard、策定中)
- 昆明・モントリオール枠組みのグローバル目標(特に30×30目標)
成功のポイント
- SBTi(気候)との統合アプローチ:気候・自然の目標設定を別々のプロセスではなく統合戦略として進めることでリソース効率化
- 完璧なデータを待たない:Scope 3データ不完全でも開始できる段階的パスウェイを選択する
- 業種別専門家との連携:食品・農業・林業など自然依存度の高い業種は専門的なコンサルティングと並行して進める
日本企業への適用
日本では生物多様性条約COP10(愛知目標)の後継として「30×30目標」(2030年までに陸・海の30%を保護区または自然共生サイトとして保全)が政策化されている。環境省の「自然共生サイト認定制度」への申請と合わせて、SBTsforNature 2.0による自然ターゲット設定を進めることで、企業の自然ポジティブ宣言の国際的信頼性を高められる。食品・飲料・製紙・建設業種を中心に先行対応の機会がある。
