概要

本章は、脱炭素をめぐる金融の本質を「信用の設計と流通」という観点から捉え直す。金融取引では、相手の実態や返済可能性が分からなければ、見知らぬ相手に資金を提供することは難しい。同様に、企業の排出量や削減実績も、誰が、どの範囲で、どのような根拠に基づいて算定したかが明確でなければ、取引可能な情報にはならない。とりわけScope3では、排出の責任主体とデータの所有者が一致しない場合が多く、信用を構築する仕組みそのものが重要になる。

ポイント

  • 金融における「信用」は、単なる評判ではなく、相手を識別し、情報を検証し、将来の履行可能性を判断するための基盤である。
  • 脱炭素関連の価値を売買するには、排出量・削減量・環境価値の帰属先と証拠が必要になる。
  • Scope3はサプライチェーン上の複数企業にまたがるため、排出量を誰のものとして扱うかが曖昧になりやすい。
  • データの標準化、トレーサビリティ、第三者による検証は、環境価値を金融市場で扱うための信用インフラになる。
  • 信用が制度やデータによって可視化されると、これまで取引しにくかった削減努力やリスクも、評価・融資・契約の対象になり得る。

実務への示唆

企業はScope3排出量を開示するだけでなく、算定境界、データの出所、推計方法、責任分担を取引先と共有し、後から検証できる状態にしておく必要がある。金融機関や調達部門は、排出量の大小だけでなく、データの信頼性と削減計画の履行能力を信用評価の一部として扱うことが重要である。

出典

第5章 信用(Finance)が売買可能になった瞬間