概要

本章は、脱炭素をめぐる「環境価値(E)」が、どのような経路を通って社会や企業活動に組み込まれ、成熟していくのかを考察する。中心的な問いは、サプライチェーン全体に広がる排出、特にScope 3を、誰が把握し、負担し、価値として管理するのかという点にある。四つの歴史を手がかりに、環境価値を単なる環境配慮や排出量の数値ではなく、企業間関係、制度、資本、市場をつなぐ構造として捉える。個別企業の削減努力だけではなく、排出と価値の帰属をめぐる仕組みそのものを見直す視点を提示する内容である。

ポイント

  • Scope 3は一企業だけに帰属する排出ではなく、原材料、製造、物流、販売、使用、廃棄など複数主体の活動から構成される。
  • 環境価値の成熟には、排出量の測定だけでなく、責任・費用・便益・証跡を誰が引き受けるかを定義する必要がある。
  • 「四つの歴史」は、環境価値が単独の技術や制度から生まれるのではなく、複数の社会的・経済的な流れの交差点で形成されることを示す視座となる。
  • Scope 3対応では、データの精度向上だけを目指すのではなく、取引関係や意思決定に環境情報をどう組み込むかが重要になる。
  • 環境価値は報告書上の指標にとどまらず、調達、製品設計、価格、投資、契約などを変える実務上の資産になり得る。

実務への示唆

日本企業は、まず自社のScope 3を「集計する対象」ではなく、取引先と削減責任やデータ連携の方法を協議する関係性として捉える必要がある。排出量の算定範囲、データ品質、削減貢献の扱い、費用負担を整理し、環境価値が社内外の意思決定に反映される運用へ段階的に移行することが重要である。

出典

第6章 環境価値(E)はどこを通って成熟するのか