概要
アイデンティティ管理ソフトウェア企業のOktaは、社員が使用するAIソフトウェアツールの排出量を管理するための包括的な実装を2026年4月に完了した。AIツール利用の急拡大に伴い、企業のScope2・Scope3排出量にAI起因の電力消費が無視できない影響を与えるようになっている。
実装ステップ
ステップ1:体制構築(クロスファンクショナルチームの組成)
- サステナビリティチームが主導し、エンジニアリング・IT部門の担当者と連携チームを構成
- サステナビリティを「単独のレポーティング業務」ではなく「テクノロジー調達・管理プロセスへの統合」として位置づける
- AI利用実態の把握は情報セキュリティ部門との連携が不可欠
ステップ2:暫定測定システムの構築(公開データ活用)
現時点ではAIベンダーが排出量データを開示していないため、以下の指標を組み合わせた独自算定式を開発する:
| 指標 | データ取得方法 |
|---|---|
| AIが生成したコード行数 | 開発ツールのログ |
| トークン使用量 | API利用ログ |
| モデルのトレーニング要件 | 公開論文・ベンチマーク |
| 従業員の所在地 | HRシステム |
| データセンターの地理的位置 | ベンダー仕様書 |
電力消費量の推定は、データセンター所在地の電力グリッドの排出係数(g-CO₂/kWh)と掛け合わせてCO₂換算する。
ステップ3:社員向けガイドラインの策定と周知
- 明確な効率化メリットがあるプロジェクトに限りAI活用を推奨
- エネルギー消費ベンチマークを参考に「最も軽量なモデル」を選択するよう指示
- 「OpenWebUI」等のエネルギー効率ランキングツールを導入し、モデル選択の可視化を支援
- 利用ガイドラインは義務ではなく推奨として運用(定着率を優先)
ステップ4:再生可能エネルギー証書(REC)による相殺
- 使用頻度上位のAIツール(上位2ツール)から生じる推定排出量を特定
- 当該排出量に相当するRECを年次で購入
- REC購入量は毎年AI利用実態の再測定結果に応じて拡大
ステップ5:リアルタイム化(将来ロードマップ)
- 現在のバッチ式測定をリアルタイムの排出量インサイトへ移行
- ダッシュボード化により部門別・プロジェクト別の排出量を可視化
- より迅速な効率化改善と意思決定の向上を実現
使うツール・標準
- OpenWebUI:AIモデルのエネルギー効率ランキングツール
- 再生可能エネルギー証書(REC):AIツール起因排出量の相殺
- GHGプロトコル Scope3 カテゴリ11(販売した製品の使用)またはカテゴリ1(購入した製品・サービス):AI利用の算定カテゴリ
成功のポイント
- AI排出量の算定は「完璧なデータを待つ」より「公開データによる暫定測定を早期に開始する」ことが重要
- ガイドライン策定は「禁止」ではなく「効率的なAI利用の推奨」というフレーミングで社内受容性を高める
- AI利用ログは情報セキュリティポリシーに組み込んで日常的に収集する仕組みを作る
日本企業への適用
AIツールの社内利用が急速に拡大する日本企業においても、Scope2・Scope3のAI起因排出量の把握は2025-2026年の開示要件強化の文脈で注目されている。Oktaのアプローチは「測定手法の標準化が進んでいない領域でも、暫定的な測定システムを自社で構築して開示できる」という先例として参考になる。まずはChatGPT・Copilot・Gemini等の主要AIツールの上位利用者を特定し、API利用ログのトークン数から排出量を概算することから始められる。