実装ステップ
1. プロセス排出をスコーピングする
セメント製造では、石灰石の加熱分解(仮焼)から生じるプロセス排出がCO2の約60%を占め、燃料由来の残り40%と合わせてSAF・省エネだけでは削減できない。CCUSと代替燃料・水素の組み合わせが不可欠。
2. CCUS設備を設計・調達する(ボトランティムモデル)
スペインのVotorantim Cimentos Españaは、Toral de los Vados工場(年産160万トン)に「排ガスからの直接CO2捕捉・液化」設備を導入。主要技術選択肢:
- アミン吸収法(最実績豊富)
- 固体吸着法(コンパクト設備向き)
- 化学ループ燃焼法(新興技術)
設備のCO2捕捉率・電力消費・液化・輸送コストを設計段階で試算する。
3. 廃棄物由来水素と代替燃料に転換する(Cemexモデル)
Cemex Españaはアルカナル工場でHYIELDコンソーシアム(水素製造連合)と連携し、廃棄物-水素デモプラント(WtEnergy社、EUホライゾン欧州から1,000万ユーロ支援)を建設。廃棄物由来水素でキルン燃料の一部を代替する。
4. 公的補助金スキームを活用する
- EU PERTE(戦略的経済回復・変革プロジェクト):スペイン政府がEU支援で産業脱炭素に配分する大規模補助金。ボトランティムに1億1,960万ユーロ、Cemexに2億ユーロを交付。
- EU ETS(排出権取引制度):炭素価格がCCUS投資の経済性を支える。
- Innovation Fund(EUイノベーションファンド):ETS収益を原資にした産業革新補助金。
5. 2030年目標から逆算してロードマップを策定する
ボトランティムは2030年の目標を「CO2強度475kg/製品トン」に設定。段階的目標:
- 2027年:CCUS設備完工、年間CO2回収量を確定
- 2030年:475kg目標達成、プロセス全体の低炭素化完了
- 2050年:カーボンニュートラルコンクリート実現
使うツール・標準
- GCCA(グローバルセメント・コンクリート協会)ネットゼロロードマップ2050
- IEA Cement Technology Roadmap
- EU ETS(排出権取引制度)炭素価格モニタリング
- EU PERTE産業脱炭素プログラム申請ガイドライン
- ISO 27914(地中CO2貯留規格)
成功のポイント
- セメント産業は世界CO2排出量の約7%、EU内では約4%を占める「難削減部門」。CCUSなしでの脱炭素は現時点では不可能に近い。
- 三角形の経済性モデル:公的補助金(PERTE)+炭素価格(ETS)+自社目標(2030年KPI)が揃って初めてCCUSの投資回収が成立する。
- コンソーシアム型(HYIELD等)での共同開発がコスト分散と技術リスク低減に有効。単独企業では到達できないスケールをコンソーシアムで実現する。
- スペインPERTEの成果として年間1,300万トンの産業排出削減を目標設定している。国レベルの産業脱炭素クラスター形成が個別企業の取り組みを後押しする。
日本企業への適用
日本のセメント産業(太平洋セメント・住友大阪セメント・UBE三菱セメント等)も2050年カーボンニュートラルに向けてCCUSが必須技術となっている。経産省のGI基金「カーボンリサイクル・次世代火力」部門での支援とスペインPERTE型の産業クラスター補助金設計が参考になる。CCUSはサプライチェーン全体で設計する必要があり、CO2輸送・貯留インフラの整備(国内CCSサイト確保)と並行して検討すべき。コーポレートPPAや水素専焼キルン技術との組み合わせも選択肢になる。