研究の概要
電力系統の安定運用には、急な需給変動に対応する「補助サービス(アンシラリーサービス)」が不可欠である。従来の補助サービス(周波数調整・電圧調整・予備力等)は火力・水力発電が担ってきたが、脱炭素化に伴い風力発電・EV(電気自動車)アグリゲーター・需要側資源(DSR)がこの役割を担うことへの期待が高まっている。
しかし、これらの確率論的リソース(出力変動が大きい電源)が予備力を提供できるかどうかは事前には不確かであり、系統運用者は「提供可能確率の最低閾値(信頼性要件)」を設ける。デンマーク送電系統運用者Energinetが先駆けて導入した「P90要件」は、市場参加者が落札容量の90%以上を90%の確率で提供することを義務づける。しかし、この90%という閾値は慣習的に設定されたものであり、経済的に最適かどうかは検証されていなかった。
主な発見・成果
本研究は「信頼性閾値を設計変数」として扱う二段階最適化フレームワークを構築した。上位では送電系統運用者が信頼性閾値を内生的に決定し、下位では各事業者がその閾値に対して確率制約付き入札で応答する構造である:
- コスト最適閾値はP90より低い:ノルディック周波数制御市場(FCR-D)への適用では、P90固定より最大14.5%のコスト削減を達成
- 時間帯別動的閾値の効果:時間帯ごとに閾値を変動させると、さらに最大2.4%の追加削減が可能
- Weibull分布による解析的再定式化:確率制約を解析的に扱うことで計算効率を大幅改善し、実用的な最適化が可能
実務への応用
この研究は以下の3つの実務的示唆を持つ。①日本でも今後、再エネ・蓄電池・EV充電器の需給調整市場(需給調整市場)への参加が拡大するが、電力広域的運営推進機関(OCCTO)や一般送配電事業者が設定する「調整力供出確率要件」の設計に示唆を与える。②EVアグリゲーターや蓄電池事業者が市場に参加する際、Weibull分布による確率モデリングは自社の応答能力評価に活用できる手法である。③「固定した信頼性閾値より最適化した閾値」というコンセプトは、日本の調整力公募の設計改善議論にも応用できる視点を提供する。