実装ステップ
ETS対象企業(排出者側)
1. 残留排出量の特定と長期計画策定
- 「Hard-to-abate(削減困難)な残留排出」を設備・プロセス別に分類する
- 2031年以降のBioCCS・DACCS費用推移をモニタリングし、投資タイミングを評価する
- SBTiネットゼロターゲットの「残留排出10%」とETS義務の連動を確認する
2. CRCF認証プロセスへの準備
- 適格CDR単位にはEU炭素除去・炭素農業規制(CRCF)の認証が必須
- 現時点でCRCF認証の審査プロセスと必要書類を把握する
- EU子会社・欧州事業を持つ場合、CRCF認定CDRサプライヤーのパイプライン構築を開始する
CDR事業者(BioCCS・DACCS開発者)
3. 政府調達市場を前提とした事業計画策定
市場設計の概要(欧州委員会提案・2026年7月20日):
| 時期 | 内容 |
|---|---|
| 2031年〜 | 欧州委員会が「Removals Authority」として調達開始 |
| 2031〜2040年 | 総計2.5億トンのCO2除去を政府調達 |
| 推定価格 | €200/トン(総額€500億規模) |
| 2040年 | 年間最大4,800万トン・年間€100億規模 |
| 2036〜2040年 | 国際クレジット最大2.6億トン許容(2033年見直し) |
4. 適格技術の選択と開発スケジュール
初期フェーズの適格技術(2031年開始時点):
- BioCCS(バイオエネルギー+炭素回収貯蔵):既存のバイオマス発電・熱供給施設にCCS設備を付加する
- DACCS(直接空気回収+炭素貯蔵):大気中CO2を直接回収して地中貯留する
- バイオ炭等の低技術オプションは将来フェーズでの追加対象として見直し予定
5. 国際クレジット市場との連動
- 2036〜2040年に国際クレジット(最大2.6億トン)が許容される設計
- 日本・米国・カナダ等の認証CDRクレジットの適格化基準の動向を注視する
- ICVCMのCCP認証クレジット(VM0044等)の適格化可能性を早期に確認する
使うツール・標準
- CRCF(EU Carbon Removal and Carbon Farming Regulation):EU適格CDR認証の基盤規制
- EU ETS Phase 5規制:コンプライアンス義務の法的枠組み
- ISO 14064-3:GHG検証・バリデーションの国際標準
- IEA DACCS・BioCCS技術ロードマップ:コスト・技術成熟度推移の参照基準
成功のポイント
Carbon Air Transport Foundationが「産業に最強の需要シグナルを提供する」と評価するように、€200/トン規模の政府保証価格は現在のDACC商業コスト(約$400〜600/トン)の急速な低下を引き起こす可能性がある。ただしBeZero Carbonの指摘通り「BioCCSとDACCSのみへの限定」は永続性・追加性の品質管理面で有利だが、バイオ炭・農業炭素除去等の低コストオプションの排除には注意が必要。設計変更リスクを踏まえ、FlexibilityのあるプロジェクトポートフォリオとCRCF認証の早期取得が優先課題となる。
日本企業への適用
日本のCCS政策(JOGMEC・苫小牧等)とEU制度は異なるが、欧州でBioCCS・DACCSを展開する重工業・エネルギー企業にとって政府調達市場は安定収益源になりうる。三菱重工・川崎重工等のCCS技術保有企業は欧州CDR事業者との技術供与・合弁を検討する好機である。また、EU ETS対象の欧州子会社を持つ日本企業は、2031年以降のCDR調達コストを財務計画に組み込む準備を開始すべきである。