概要
欧州委員会は2026年7月17日、EU排出権取引制度(ETS)の改革案を提出した。2031年以降の脱炭素投資計画提出を条件に無償割当を2038年まで延長するなど、EU拠点を持つ企業の実務に直結する変更を含む。2040年目標(1990年比90%削減)に向けた制度的枠組みの再設計だ。
実装ステップ
ステップ1:脱炭素投資計画の策定(2031年前に必須)
- 2031年以降の無償割当は「承認された脱炭素化投資計画」の提出が前提条件
- 割当の80%は投資計画承認企業へ、残り20%は実績を示した企業に配分
- 計画には投資額・削減目標・スケジュール・モニタリング手法を含める必要がある
- 今から投資計画の策定・内部承認プロセスを整備し、2030年末までに申請できる体制を構築する
ステップ2:新規対象セクターへの備え
- 航空:EUから5,000km圏内の国際線(ビジネスジェット含む)が2029年からETS対象
- 海運:400〜5,000トン未満の小型船が段階的に追加
- 廃棄物:焼却施設が2031年から段階導入
- 自社グループの事業範囲を確認し、新規対象となる拠点・輸送モードを特定する
ステップ3:加盟国の産業脱炭素支援スキームの活用
- 加盟国はオークション収益の50%以上を産業脱炭素・クリーンエネルギー・廃棄物管理に投入義務
- 主要拠点が所在する加盟国の補助金・融資プログラムの情報収集を開始する
- EU Innovation Fund・EU ETS National Fund等の申請スケジュールを把握する
ステップ4:カーボン除去クレジットの長期戦略への組み込み
- 2034年以降:直接空気回収(DAC)等の永久的CO2除去が柔軟性手段として活用可能
- 2036年以降:国際クレジット活用が解禁(削減分の最大5%まで)
- 長期コンプライアンスロードマップにクレジット調達オプションを組み込む
使うツール・標準
- EU ETS(欧州排出権取引制度)の改訂規則
- EU Carbon Removal and Carbon Farming(CRCF)Regulation
- EU Innovation Fund(産業脱炭素投資支援)
- CORSIA(国際航空向け、EU ETSとの整合確認)
成功のポイント
- 無償割当の延長(〜2038年)は企業の移行コストを軽減するが、投資計画提出が条件のため「計画ない=割当なし」のリスクがある
- 2031〜35年の年間削減率が3.7%(現行より緩め)になることで計画立案の余裕が生まれるが、2040年目標達成のために自主的な前倒し削減が求められる可能性がある
- 環境NGOは改革案を「不十分」と批判しており、将来的な規制強化のバッファを見込んだ目標設定が賢明
日本企業への適用
EU拠点・EU向け輸出(航空・海運含む)を持つ日本企業はEU ETSの対象拡大を直接受ける。特に2029年の国際航空対象拡大と2031年の脱炭素投資計画義務化は具体的な準備期限となる。EU拠点のGHG排出量把握・削減ロードマップ策定・投資計画文書化を今から開始すること。CBAM(炭素国境調整メカニズム)との整合性も同時に確認するとよい。