研究の概要
EV(電気自動車)の普及において、急速充電は利便性向上の鍵だが、リチウムイオン電池の過熱リスクが障壁となる。電池のコア温度(内部温度)は直接計測不可能なため、安全制御が困難だった。本研究は、新世代のニューラルネットワーク「コルモゴロフ・アーノルドネットワーク(KAN)」を用いてコア温度を推定し、その推定値を「ロバスト制御バリア関数(rCBF)」に組み込むことで、急速充電の安全性と充電速度を両立する制御フレームワークを提案する。
KANは従来のMLPに代わる新しいネットワーク構造で、物理系のモデリングに適した特性を持つ。本研究ではKANを電池熱モデルに適用し、電池表面温度・冷却液温度・冷却パワー・充電電流という外部から計測可能な4変数のみを入力として、内部コア温度をリアルタイム推定する。
主な発見・成果
- KANを用いたコア温度推定と安全制御の統合(KAN-rCBF)により、急速充電中の熱安全性を解析的に保証できることを示した。推定誤差やモデル不確かさがあっても、安全制約を破らないことが数学的に証明される。
- 充電時間は従来の最先端手法と同等を達成しながら、熱安全性のレベルは従来手法を大幅に上回る。つまり速度・安全性のトレードオフを実質的に解消した。
- アルゴリズムは二次計画問題(QP)として定式化されており、リアルタイム実装が可能。組み込みシステムへの搭載を視野に入れた実用的な設計。
- シミュレーション検証により、提案手法が既存手法では保証できない熱安全性を実現することを確認。
実務への応用
EVの急速充電インフラ設計・バッテリー管理システム(BMS)開発に携わるエンジニアに有用な研究。 日本政府はEV普及加速を掲げており、急速充電器の整備拡大とともに充電安全性の技術的確保が重要課題となっている。本研究の知見は以下の実務場面で活用できる:(1) BMS設計における熱安全制約の定式化と保証手法の参考、(2) 急速充電プロトコル設計時の安全余裕の定量的評価、(3) KANを活用した電池状態推定技術の自社製品・サービスへの応用可能性の検討。また、直接計測困難な内部状態をAIで推定しつつ安全性を数学的に保証するという設計思想は、電池以外のエネルギー機器(熱ポンプ、燃料電池等)の安全制御設計にも応用可能。