実装ステップ
EU炭素国境調整メカニズム(CBAM)は2026年1月1日に本格施行されたが、欧州議会は現在、鉄鋼・アルミニウムを含む下流製品(完成品・加工品)への拡大を審議中である。拡大対象は鉄鋼・アルミニウム含有率79%平均以上の約200品目の下流製品が含まれる見通しで、欧州議会の交渉ポジションが採択されており、EU加盟国との協議を経て最終化される。
現在の対象6品目(2026年1月施行済み):セメント・鉄鋼・アルミニウム・肥料・電力・水素
ステップ1:現状の義務確認(既に適用中)
- 上記6品目をEUに輸出する企業はすでにCBAM申告義務が発生している
- 2026年1月以降、EU輸入業者は購入した「CBAMザーティフィカート」を購入する義務
- 輸出国での炭素コスト(ETS価格等)を証明できる場合は相殺が認められる
- 未申告・虚偽申告には罰則(1トンあたり100ユーロ相当のペナルティ)
ステップ2:下流製品拡大への備え
- 拡大対象の約200品目(鉄鋼・アルミ含有率79%以上の完成品)に自社製品が該当するか確認
- 対象製品の炭素コンテンツ(Embedded Emissions)の把握が新たな義務となる見通し
- Scope 3の上流排出計上が商業的必要性に変わる:「排出量データがない→EU市場に輸出できない」という構造
- PACT 3(パートナーシップ・フォー・カーボン・トランスペアレンシー)などのScope 3データ標準と連携した産業別排出係数の把握を開始
ステップ3:炭素コンテンツ計算システムの整備
- 製品の炭素コンテンツ(直接+間接排出)を算定する社内システムを構築
- データソース:自社の工場排出量(Scope 1)+購入電力(Scope 2)+原材料調達排出量(Scope 3 上流)
- EU指定の算定方法論(CBAM規則付属書I)に準拠した計算を実施
- サードパーティ検証機関による認証取得
ステップ4:サプライチェーン全体のCBAM影響マップ作成
- 自社製品がEU市場に最終的に届くサプライチェーン上の立ち位置を確認(直接輸出か間接輸出か)
- 直接輸出者:CBAM申告義務を直接負う
- 間接輸出者(EU輸出企業へのサプライヤー):EU顧客からの炭素コンテンツ情報提供要請に対応する義務を実質的に負う
- EU顧客との長期契約に「炭素コンテンツ情報の提供義務」条項を追加することを検討
使うツール・標準
- CBAM規則:EU規則2023/956および施行規則2023/1773
- 炭素コンテンツ算定:CBAM規則付属書I(実際のデータ優先、デフォルト値は過渡期のみ)
- Scope 3データ標準:PACT 3(パートナーシップ・フォー・カーボン・トランスペアレンシー)、ecoinvent等
- 認証機関:EU認定のCBAM認証機関(Accredited Verifier)
- 申告システム:EU CBAMポータル(European Commission CBAM Registry)
成功のポイント
- 下流製品への拡大は「Supply Chainへの波及」という意味で、製品Aを作るための鉄板Bを供給する日本企業も影響を受ける「間接的な適用」が発生する
- 欧州議会の採択ポジションではあるが、加盟国との協議次第で修正がありうる。今から対応準備を始めながら最終化を注視する姿勢が現実的
- 「炭素データなき取引は商業的不利」という構造が本格化するため、GHG排出量の製品レベルでの可視化は投資対効果が高い
日本企業への適用
鉄鋼・アルミニウム・肥料・セメントを製造・輸出する日本企業はすでにCBAMの直接対象。下流製品拡大後は自動車部品・機械・家電なども間接的な影響を受ける可能性がある。EU GHG規制対応と並行して、製品レベルのカーボンフットプリント計算能力の構築が急務である。
