概要
本章は、科学における「合意」とは何か、また社会で語られる合意形成がどのように受け取られるかを考える内容です。特に、気候変動をめぐる議論で頻繁に引用される「97%」という数字を手がかりに、科学的コンセンサスの意味と、その数字だけが独り歩きする危うさを扱います。科学者の多数意見は、個々の研究結果が完全に同一であることを示すものではなく、蓄積された証拠から共通の結論が形成されていることを示します。一方で、受け手は自分の前提や関心によって異なる「世界」を見ており、同じデータでも解釈や納得の度合いが変わります。
ポイント
- 「97%」のような数値は強い説得力を持つ一方、何を対象に、どの定義・調査方法で算出された数字なのかを確認する必要がある。
- 科学的合意は、全員の見解が一致することではなく、主要な証拠と因果関係について専門家の見方が収束している状態を指す。
- 合意の有無を二択で捉えると、確度、条件、残された不確実性といった重要な情報が失われる。
- 社会的な議論では、事実の提示だけでなく、相手がどの前提や価値観から問題を見ているかを理解することが重要である。
- 脱炭素政策や気候リスクの説明では、科学的知見、政策判断、費用負担、倫理的選択を分けて示す必要がある。
実務への示唆
脱炭素に関する社内説明やステークホルダー対話では、「専門家の合意がある」とだけ伝えず、対象となる主張、根拠、確実性、不確実性を併記すると、誤解や反発を抑えやすくなります。また、合意形成を進める際は、データの正しさだけでなく、相手が重視する経済性、公平性、地域影響、将来世代への責任を明示的に扱うことが有効です。
