概要
本章は、環境価値を「環境に良いから買ってください」という情緒的な訴求だけで販売しようとする、日本企業の脱炭素ビジネス上の誤解を扱う。脱炭素関連の商品・サービスを市場に定着させるには、理念への共感だけでなく、顧客企業の経済合理性や事業上の必要性に接続することが重要である。特に、サプライチェーン全体の排出を捉えるScope3では、排出削減の責任や便益を誰が担うのかを明確にしなければ、環境価値の対価を得にくい。環境価値を取引可能な価値へ変えるには、排出量、削減効果、費用、リスク低減などを具体的に示す必要がある。
ポイント
- 「環境に良い」という道徳的・情緒的なメッセージだけでは、継続的な購買理由になりにくい。
- 顧客が支払う根拠として、規制対応、取引先からの要請、資金調達、コスト削減、競争力向上などの事業上の便益を示す必要がある。
- Scope3では、排出の発生者、削減投資の負担者、環境価値の受益者が一致しない場合がある。
- 環境価値を販売する際は、削減量の算定方法、証跡、追加性、二重計上の防止など、信頼性の設計が欠かせない。
- 脱炭素ソリューションは、環境性能そのものではなく、顧客の意思決定に組み込める商品設計が求められる。
実務への示唆
脱炭素事業を企画する際は、環境貢献度の説明に加え、誰のScope3排出をどのように減らし、顧客にどの財務的・事業的メリットをもたらすのかを整理するべきである。販売資料や提案書では、排出削減効果、費用負担、導入後の成果指標、証明方法を明示し、環境価値を「共感」から「意思決定に使える価値」へ転換することが重要となる。
